鑑賞

俳句や短歌、川柳など、短詩作品を各人が読みます。

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〈鑑賞した作品一覧〉

1. 針と針すれちがふとき幽かなるためらひありて時計のたましひ 水原紫苑
2. ふりそそぐ案山子悲しみ神のいしき 田島健一
3. とかくして笠になしつる扇哉 蕪村
4. 野遊びのやうにみんなで空を見て 大木あまり
5. 小雪まふ淺草川や淺い川 加藤郁乎
6. 藤という燃え方が残されている 八上桐子
7. くび垂れて飲む水広し夏ゆふべ 三橋敏雄
8. しみじみと沁々と冬の日を愛しけり 赤尾兜子
9. 午時一度蜂に開たり冬ごもり 建部涼袋
10. 鯉におしえられたとおりに町におよぎにゆく 阿部完市

11. 蝶々の大きく白く粉つぽく 岸本尚毅
12. 良く酔えば花の夕べは死すとも可 原子公平
13. 花花花花花花花かな 三井秋風
14. 白き午後白き階段かかりゐて人のぼること稀なる時間 葛原妙子
15. 石段のはじめは地べた秋祭 三橋敏雄
16. 春の筆かなしきまでに細かりし 田中裕明
17. 巨き星めらめら燃ゆる木枯に 相馬遷子
18. 風の建物の入口が見つからない 種田山頭火
19. 真青な中より実梅落ちにけり 藤田湘子
20. 辞令あり蛸唐揚げと与太話 藤田哲史

21. 福豆の枡の形の美しき 高野素十
22. アマリリスあしたあたしは雨でも行く 池田澄子
23. 切り口のざくざく増えて韮にほふ 津川絵理子
24. チューリップにやにや笑う星野源 木田智美
25. 唇をなめ消す紅や初鏡 杉田久女
26. 指さきを/ピストルにして/妻撃ち/子撃ち 松本芳味
27. これ以上澄みなば水の傷つかむ 上田五千石
28. 日本に目借時ありセナ爆死 光部美千代
29. 浜木綿やひとり沖さす丸木舟 福永耕二
30. 火は火のことをかの火祭の火のほこら 大井恒行

31. 磨かれた消火器の赤明日また会う 鈴木六林男
32. 目がさめるだけでうれしい 人間がつくったものでは空港が好き 雪舟えま
33. 濡れてゆく鬼灯市の人影も 石田郷子
34. 虹あとの通路めまぐるしく変る 鴇田智哉
35. 十棹とはあらぬ渡しや水の秋 松本たかし
36. 美しいデータとさみしいデータに雪 正木ゆう子
37. 何もないが心安さよ涼しさよ 一茶
38. 音する 雨 音のむ 雨 産み落とされたころの和らぎ 髙橋みずほ
39. 集まつてだんだん蟻の力濃し 南十二国
40. 轢き癖の踏切梅雨を鳴りどほし 高橋睦郎

41. 手をあげて遠のくものや稲光 川崎展宏
42. 父に雉啼きゐて濡れてゐない沖 柚木紀子
43. 青嵐あなたにはこゑをもらつた 小川楓子
44. 鯉涼し水を忘れしごとく居る 森澄雄
45. 夜の雲に噴煙うつる新樹かな 水原秋桜子
46. そんなにいい子でなくていいからそのままでいいからおまへのままがいいから 小島ゆかり
47. 梅雨寒し忍者は二時に眠くなる 野口る理
48. 花火 これ以上の嘘はありません 福田文音
49. しづかなる水は沈みて夏の暮 正木ゆう子
50. 岩魚飼ふ大雪山の雪解水 長谷川櫂

51. 暮れまぎれゆくつばくらと法隆寺 加藤楸邨
52. 虹を懸け時が到ればまた外す 山口誓子
53. 日々明るくて燕に子を賜ふ 飯田龍太
54. ひかる絃肺胞がひらきゆく海霧 宮本佳世乃
55. 小鳥来て湖に雨続きけり 阪西敦子
56. かの世より飛び来たる矢にいなびかり 野見山朱鳥
57. ひきだしに剃刀くもる旱り星 飴山實
58. 朝顔にありがとうを云う朝であった。 大本義幸
59. 白扇のゆゑの翳りを広げたり 上田五千石
60. 人の死や西瓜の皮を鯉つつく 小澤實

61.雪癖や獄窓めけるひとつ窓 草間時彦
62.頭の中の雪のつもりぬ片隅に青磁の壺とグローブがある 森岡貞香
63.昼しづかケーキの上の粉ざたう見えざるほどに吹かれつつをり 葛原妙子
64.朝顔や政治のことはわからざる 高濱虚子
65.この雨のこのまゝ梅雨や心細 本田あふひ
66.時と場のあるしあわせを踊り切る 古谷龍太郎
67.人類へある朝傘が降ってきてみんなとっても似合っているわ 雪舟えま
68.アイスクリームりえちゃん文化が機能する 松本恭子
69.ちゝはゝの墓に詣でゝ和歌めぐり 川端茅舎
70.晩夏晩年水のまはりの水死の木 中島憲武

71.風船の欠片は灼けて空しづか 依光陽子
72.隕石と思い己身の冷えていく 永田耕衣
73.夕東風や海の船ゐる隅田川 水原秋桜子
74.未来から過去へ点いたり消えたりしている電気 普川素床
75.紫陽花や傘盗人に不幸あれ 西村麒麟
76.きつねのかみそり一人前と思ふなよ 飯島晴子
77.日向ぼこあの世さみしきかも知れぬ 岡本眸
78.緑色の受話器は海に沈みつつ呼べどとこしなえの通話中 蝦名泰洋
79.たとへなきへだたりに鹿夏に入る 岡井省二
80.寝室や冷房が効き絵傾き 太田うさぎ

81.バスが来るまでのぼんやりした殺意 石部明
82.すすみ来し空間かへす一蛍火 山口誓子
83.かたちなき空美しや天瓜粉 三橋敏雄
84.桟橋の絵に掛けかへた自室だが、僕が戻つて来ることはない 松平修文
85.クレヨンの黄を麦秋のために折る 林桂
86.佇てば傾斜/歩めば傾斜/傾斜の/傾斜 高柳重信
87.蛍火のほかはへびの目ねずみの目  三橋敏雄
88.葬儀屋の薦めもありて松竹梅のうち竹コースで葬儀を頼む 王紅花
89.酒が飲める ことがうれしい CM の歌 むごすぎる 「けっこう 見ていきましょう 伊舎堂仁
90.名曲に名作に夏痩せにけり 高柳克弘

91.花冷に紛るるほどの怒りかな 岩田由美
92.港区は好きな区秋の風もまた 岸本尚毅
93.魚影のたまたま見えて水温む 井月
94.よろしくね これが廃船これが楡 なかはられいこ
95.遠雷や去年にはじまる一つの忌 高柳重信
96.穴惑ばらの刺繍を身につけて 田中裕明
97.それとなくひとの見てゆく春の川 飯田龍太
98.しずかにうたをうたおう木の葉の下でなにかが変わってしまうから 高橋みずほ
99.揚花火明日に明日ある如く 阪西敦子
100.きみがこの世でなしとげられぬことのためやさしくもえさかる舟がある 正岡豊

101.連衆に足らざる傘や泥鰌鍋 大庭紫逢
102.鵙がをり鵙の論理はきらきらと 加藤楸邨
103.人間に火星近づく暑さかな 萩原朔太郎
104.月あらはにきはまる照りや夏柳 富田木歩
105.どんな三角形にも黒猫が似合う 罪あるかぎり 罪あるかぎり 我妻俊樹
106.現れて消えて祭の何やかや  岸本尚毅
107.水族館の肥満家族陰惨なマカロニ跳ね 赤尾兜子
108.畑打や鍬の光のたとへなく 小杉余子
109.わあわあと/みあげている/ありあまる/あおぞらのあおが/おもしろい 早坂類
110.どのような闘いかたも胸張らせてくれず闘うたたかうだなんて 平井弘

111.雪片のつれ立ちてくる深空かな 高野素十
112.バスが来てバスにゆだねるの刑 石田柊馬
113.〈いい山田〉〈わるい山田〉と呼びわける二組・五組のふたりの山田 大松達知
114.市売の鮒に柳のちる日哉 常世田長翠
115.やじろべえになってしまいたい 手をひろげ夕暮れの廃線線路をわたる 早川志織
116.秋の蜂たたかひながらうち澄める 依光陽子
117.香水の一滴二滴籠りゐる 藤本美和子
118.数知れぬ爬虫の背は濡れながら薔薇腐れゆく垣をめぐりぬ 大野誠夫
119.わが少女花火明りに浮きて駈く 岸田稚魚
120.天の川音のするまで右に廻し 岡野泰輔

121.入口のやうにふらここ吊られけり 齋藤朝比古
122.縊死もよし花束で打つ友の肩 小宮山遠
123.こうねんは きょり あげはちょう いたんで いく 福田若之
124.レモンティー雨の向うに雨の海 太田うさぎ
125.秋茄子に入れし庖丁しめらざる 川崎展宏
126.ヴァージニア・ウルフの住みし街に来てねむれり自分ひとりの部屋に 川野芽生
127.七十にんの赤い蝶々が、ネ、今日来るのです 金原まさ子
128.ありわらのなりひらしゃらしゃら気管支をならしわたしにうでをさしだす 野口あや子
129.切口の匂ふ西瓜の紅に 岡野知十
130.あいまい宿屋の千枚漬とそのほか 中塚一碧楼

131.回転ドアの中でマスクを外して入る 池田澄子
132.まるめろの実に量感を与える灯 藤田哲史
133.どうしても君に会いたい昼下がりしゃがんでわれの影ぶっ叩く 花山周子
134.こうやって暖炉の角に肘をつき 岡野泰輔
135.馬肥えぬ叩きめぐりて二三人 橋本鶏二
136.みづうみに鰲を釣るゆめ秋昼寝 森澄雄
137.雪中にふる雪満開とぞ言はむ 平畑静塔
138.夜の駅に溶けるように降りていき二十一世紀の冷蔵庫の名前を見ている フラワーしげる
139.萍のみんなつながるまで待つか 飯島晴子
140.満月の冴えてみちびく家路あり 飯田龍太

141.飛び込みの水面が怖くなかった頃 神野紗希
142.手袋にキップの硬さ初恋です 藤本とみ子
143.山晴を振へる斧や落葉降る 飯田蛇笏
144.洗脳はされるのよどの洗脳をされたかなのよ砂利を踏む音 平岡直子
145.重ねた時間優しい鳩が僕を踏む 浦賀廣己
146.トイレの蛇口強くひねってそういえば世の中の仕組みがわからない 望月裕二郎
147.園丁の一緒に浸かる犀の水 田川飛旅子
148.うつうつと最高を行く揚羽蝶 永田耕衣
149.半日もあれば愛せるゆでたまご 石部明
150.黄昏のふくろう パセリほどの軽蔑 小池正博

151.あなたはおかあさん正真の雪正真の白  宇多喜代子
152.棹ささんあやめのはての忘れ川 高橋睦郎
153.天は二物を与へず愛しき放屁虫 有馬郎人
154.着古した服に似ている神秘に出会う人よ スプーンとスプーンとナイフ 瀬戸夏子
155.ひといつかうしろを忘れ小六月 飯田龍太
156.ともだちが短歌をばかにしないことうれしくてジン・ジン・ジンギスカン 北山あさひ
157.ふるさとがゆりかごならばぼくらみな揺らされすぎて吐きそうになる 山田航
158.もう何も見えなくなりし鷹の道 佐々木六戈
159.チャールズ・シュルツ倒れし後もチャーリーは獨身のまま白球を追ふ 佐々木六戈
160.大晦日のエスカレータに 乗せられ 堀豊次

161.霜の太杭この土を日本より分つ 加藤楸邨
162.春禽にふくれふくれし山一つ 山田みづえ
163.ノートパソコン閉づれば闇や去年今年 榮猿丸
164.面接のごとく向き合ふ初鏡 鷹羽狩行
165.生きていることはべつにまぐれでいい 七月 まぐれの君に会いたい 宇都宮敦
166.コンドルの貧乏歩きも四日かな 飯島晴子
167.ある朝の大きな街に雪ふれる 高屋窓秋
168.結婚が許されないなら前ぶれなしに心中湾にセスナをつっこんで二人で死ぬつもりです 松平修文
169.見えてゐて京都が遠し絵双六 西村麒麟
170.ちみつななみだ、ちみつなこころをわすれずに。永遠に準備中の砂浜 藪内亮輔

171.襖しめて空蟬を吹きくらすかな 飯島晴子
172.緯をぬきとれば神の序列みえ異教徒のやうに明るい裁縫 山中智恵子
173.公園の冬温かし明日世界は 上田信治
174.調律師の感性を書きつけたメモを雪原に置いてきてしまったよ 服部真里子
175.春の獅子座脚あげ歩むこの夜すぎ きみこそはとはの歩行者 山中智恵子
176.雪の森薄刃のごとき日が匂ふ 福永耕二
177.本は木々には還らぬとして(知らないが)あなたのことをあなたより好き 𠮷田恭大
178.此処あったかいよとコンビニエンスストアの灯 池田澄子
179.三輪山の背後より不可思議の月立てりはじめに月と呼びしひとはや 山中智恵子
180.乾鮭の余寒の頭残りけり 岡本癖三酔

181.さくら葉桜ネーデルランドのあかるい汽車 田島健一
182.孤児たちに映画くる日や燕の天 古澤太穂
183.夢の世の夢をばつさり松手入 大谷弘至
184.羽根を打つために駆け出すそういえばこの世の第一印象は空 盛田志保子
185.手押しポンプの影かっこいい夏休み 長嶋有
186.母と海もしくは梅を夜毎見る 岡田一実
187.椅子に深く、この世に浅く腰かける 何かこぼれる感じがあって 笹川諒
188.螢籠一夜明くれば乾きゐて 宗田安正
189.セロテープカッター付きのやつを買う 生きてることで盛り上がりたい 永井祐
190.水田を歩む クリアファイルから散った真冬の譜面を追って 笹井宏之

191.遠くにあるたのしいことの気配だけ押し寄せてきてねむれない夜 永井祐
192.雪解くる道は療養所を出でゆく 石田波郷
193.ああ数えきれない数のドア過ぎてわが家のドアにいま手をかける 小島なお
194.目の玉の断面図炉の断面図 鴇田智哉
195.金蠅も銀蠅も来よ鬱頭 飯島晴子
196.誰かまづ灯をともす街冬の雁 飴山實
197.肺臓、と言っても水浸しの 救済は火炎瓶のような右手の不透明さ 石井僚一
198.卒業を見下してをり屋上に 波多野爽波
199.雲は夏港を出でて歸りたし 三橋敏雄
200.流れ合ふ卒業式の心かな 京極杞陽

201.きらきらと魚卵こぼれる 君といて眠ったように話すいつでも 嵯峨直樹
202.春夏秋冬/母は/睡むたし/睡れば死なむ 高柳重信
203.蓮飯の箸のはこびの葉を破る 皆吉爽雨
204.もとわれら神人なれば天降るべく電気洗濯機の渦を見下ろす 阿木津英
205.本の山くづれて遠き海に鮫 小澤實
206.紫と雪間の土を見ることも 高浜虚子
207.土曜日の午前と午後のさかいめをカーニバルめく自転車屋あり 北山あさひ
208.ゆふぐれをさぐりさゆらぐシガレエテ 小津夜景
209.腹案はある杉菜へとまづ歩け 島田牙城
210.裏坂をのぼり来るも月の友 五十嵐播水

211.ひとつだけ台詞が言える夜のおばけ いい天気だねー おばけは言います 谷川由里子
212.血を分けし者の寝息と梟と 遠藤由樹子
213.春の水とは濡れてゐるみづのこと 長谷川櫂
214.沖にある窓に凭れて窓化する 筒井祥文
215.つぎつぎに蜜柑を貰ふ旅の空 矢野玲奈
216.スーパーカブに乗れば敵なし雲の峰 木田智美
217.赤とんぼ大きい葬ありし村 飯島晴子
218.居るといふ蛍のにほひ真の闇 三橋敏雄
219.長夕焼旅で書く文余白なし 田中裕明
220.風船を手放すここが空の岸 上田五千石

221.初蟬の短くなきてあとは風 桂信子
222.春いちばん製作委員会は謎 木田智美
223.浮世絵に包む伊万里や春の雪 木内縉太
224.小さくて飯蛸をとる壺といふ 能村登四郎
225.玉葱はいま深海に近づけり 飯島晴子
226.夏至のひかり胸にながれて青年のたとふれば錫のごとき独身 塚本邦雄
227.隋よりも唐へ行きたし籠枕 西村麒麟
228.壺焼やうすくらがりにくつくつと 清原枴童
229.いよいよネと言えばいよいよヨという 松永千秋
230.新しい駅が夏から秋へかな 上田信治

231.夕日ふんだり夕日けったりする河原にておひらきになんのを待っとった 吉岡太朗
232.鮎呑むと鵜の背に燃ゆる線の見ゆ 加藤楸邨
233.日本脫出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも 塚本邦雄
234.広島や卵食ふ時口ひらく 西東三鬼