雪の森薄刃のごとき日が匂ふ 福永耕二

所収:『踏歌』(東京美術 1980)

雪の森という表現はグリムの森か、くまさんの森か、どことなく童話的な雰囲気を持っている。雪も、森も、人次第である。雪深い地域を思い浮べる。それほど積雪のない地域を思い浮べる。鬱蒼とした森を思い浮べる。散策する路のある森を思い浮べる。雪の森があまりにも抽象的であるため、リアリスティックでない童話を想像するのだろうか。

この上五の童話らしい舞台設定が「薄刃のごとき日」という絵画的な光景をもっともらしく見せる。鋭い日射しだろう。いかにも冴えている。

ところが最後の「匂ふ」によって、雪の森は童話の世界から離れる。確かにいま、森のなかに存在しているのだという感覚を読み手に導く。木に囲まれた空間が広がり、繊細な感覚で日射しを捉えている。もしも「見ゆる」だとすると、森の空間は立ち上がらず、平面的で臨場感に欠ける。また、森のなかにいるとしても日射しを渇望しているようで、さらに薄刃と言われていることから精神状態が不安定に思える。一語で印象が大きく変わる。

記 平野

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