面接のごとく向き合ふ初鏡 鷹羽狩行

所収:「俳句」2020年12月号「家居」特別作品50句より

 新年気持新たに鏡に向い合う。鏡の映る己の姿も淑気満ち満ち、見慣れた顔も新規の物事を成し遂げんとする面持か。あるいは時間を倶にしてきた己の顔立を改めて眺め波瀾曲折の人生を振り返っているか。顔は歳月に鑿を震わせた彫刻である。深く刻まれた皺にはおのれの来歴が書き込まれる。我が国の歴史書「大鏡」「増鏡」や中国の歴史書「資治通鑑」を思い出せば分かるように、鏡は過去を写して未来を占うものであった。

 かつて鏡には魔物が棲んでいた。鏡は人を惑わせた。希臘神話のナルキッソス、白雪姫のお妃様、コクトーの映画「オルフェ」等を思うがよい。彼らはみな鏡の魔力にあてられてしまった者たちである。しかしかつて青年を誘惑した自己愛や希死観念も、年を経て減衰した。老いは鏡を磨き上げる。曇りなく、磨かれた鏡には観念の隔てなく己自身が映る。今まじまじと見つめよう。面接されるのも己、その彼を判じるのも己である。

記:柳元

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です