秋の蜂たたかひながらうち澄める 依光陽子

所収:『俳コレ』邑書林 2011

蜂同士が戦っているのか、蜂と他の虫が戦っているのか、それはこの句では定かではない。重要なのはそういった出来事ではなく、「うち澄める」と表現されているような戦う蜂の醸す緊張した空気感である。

蜂は人間にとって危険なもので、戦っているとなれば危険さは尚更だ。そんな蜂の周りに漂う緊迫した空気を「うち澄める」と表現したことで、この句には緊迫感だけでなく美的な感覚が現れてくる。蜂の動とその周りの空気の静との釣り合いが生む美。

蜂がただの蜂でなく、静かな秋の空気の中の蜂であること、「たたかひ」のひらがな表記が、この句の描く独特の美的感覚を支えている。

記:吉川

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