昼しづかケーキの上の粉ざたう見えざるほどに吹かれつつをり 葛原妙子

所収:『朱靈』 白玉書房  1970

 ケーキの様子を描写しているのにファンシー等の所謂ケーキらしいイメージは全くなく、異様な空気をたたえた1首。
 粉砂糖が風に吹かれているのはきっと一瞬の出来事なのだろうが、「昼しづか」という大きく長い時間と組み合わされると時間感覚が少し狂う。粉砂糖が永遠に吹かれているかのような、粉砂糖が吹かれる様をスロー再生で見ているかのような、ゆったりとした時間が生まれる。
 見えないほどの粉砂糖にクロースアップしているにもかかわらず、昼という大きな空間が組み合わされていることにも異様さがある。ケーキの上をクロースアップして小さな世界を見ていたはずなのに、視界がそれで一杯になると吹かれる粉砂糖が大きな世界となって立ち上がる。
 このちぐはぐな感覚の連なりに従っていると、何故かケーキを見ているのではなく、だだっぴろい砂漠を見ている気がしてきた。

記:吉川

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