切り口のざくざく増えて韮にほふ 津川絵理子

所収:『はじまりの樹』 ふらんす堂

普通切るという動詞にかかる「ざくざく」を、増えるにかけるというずらし方をしている。これによって、韮の切り口がクローズアップされてイメージされるという視覚的な効果があるだけでなく、切り口から立ち上る匂いをスムーズに連想させることができ、「韮にほふ」というフレーズの説得力が増している。
韮は匂いが特徴的な野菜であるが、切り刻まれることによって匂いが強まること、「ざくざく」というリズミカルな語によって、この句においてはその独特の匂いに妙な生命力を感じてしまう。それを「ざくざく」とリズミカルに単調作業として反復される包丁の動きと対比的に捉えることもできるだろう。

記:吉川

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