指さきを/ピストルにして/妻撃ち/子撃ち 松本芳味

所収:黒川孤遊 編『現代川柳のバイブル─名句一〇〇〇』理想社 2014*

 松本芳味は〈鳥葬の後も/のこる歯/噛みつく歯〉、〈難破船が/出てゆく丘の/ひそかな愛撫〉など多行形式の川柳を作句したことで知られており、掲句もまたそうであるが、妙な後味を残している。

 指をピストルの形にして、それをピストルとして、妻や子を撃つ夢想をする。もちろん、ピストルといえど指であるから、撃たれた妻も子も死んではいないだろうし、遊戯の一つとしてなされたのかもしれないが、心穏やかではない。
 撃つのであっても、標的は他にいくらでもある(たとえば冷蔵庫、植物、動物、町を行きかう他人)。しかし、大事であろう身内を撃つ。妻や子は今撃たれようとしていることに気がついているだろうか。妻や子を撃った後、主体は自分自身をも撃つだろうか。いろいろな状況や事情を考えることが出来る。遊戯のようにそうしている状況、真に迫られて妻子を撃つことになるかもしれないことを哀しく想像している状況……。

 多行書きであることや、「撃ち」という強い単語の連続が、簡単に読み過ごそうとする心を引き留めている気がする。本当に撃たれたのではないか、本気で撃とうと思って撃っているのではないかと、悪い想像をしてしまう。

 福田若之の俳句に、〈眠るちちはは刺すこと思いひとりで泣く〉(『自生地』2017)がある。これは、「刺すこと」を想起した後、その自分の想起したことに対して泣いている。行為の後の自省までが含まれている。さて、〈指さきを〉の句の主体は、この後どういう感情になっているだろうか。行為の瞬間しか映されていないということが、銃になって、あらゆる想像を脳に撃ちこんでくる。

*本来、句集等を引くべきだが、句集が手に入らず確認できていないため、アンソロジーをそのまま記した。確認でき次第、追記したい。

記:丸田

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です