魚影のたまたま見えて水温む 井月

所収:『井月句集』(岩波書店 2012)

水の温度は眺めていてもよく分らない。触ってみるか飲んでみるか、肌にふれる。それで温度を理解する。そしてもう一つ、温度が分る方法がある。分るというと語弊があるかもしれない。温かいと信じれば水は温かくなる、温かいということになる。

春の日が射している。春は生きものが動く。生きものは影を引き連れる。影が動けばそこに動く物がいる。たまたまというのが動きを表す。姿は隠れていたけれど、影だけ眼にはいる。すばやい動きだと思う。たまたま良いタイミングで魚影を見た。瞬間、春を実感する。魚の元気が良い。水もまた温かくなっているのだろう、水が柔らかい。辺りも春である、心もまた緩んでいく。

記:平野

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