蟇ねむり世はざわざわと人地獄 加藤楸邨

『加藤楸邨句集』「吹越」(岩波書店 2012)

地獄は大変だ。目が至るところにあっていつでもどこでも監視されている。ついと持ち場を離れたものなら、獄卒に追いかけられて痛い目に遭う。救いはない。というよりも救いがないから地獄なのだ。世間に人は満ちている。互いに互いをそれとなく監視して、異物があればそれとなく排除する。みずからの回りを一歩引いて眺めれば、人々が行き交いなおかつ自分もその一人と知る。否が応でも人が集まってしまう不穏さは、ざわざわと音になってどこまでもついて回る。人の世にも逃げ場はない。ところが救いは蟇にある。人も溶け入る自然の中が人の世を離れる救いになる。

記 平野

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