針と針すれちがふとき幽かなるためらひありて時計のたましひ 水原紫苑

所収:『びあんか』深夜叢書社 2014

あなたの部屋の時計は2分遅れている。あなたはそれを知っている。知っていても時計の指し示す時間のずれを直さないのは、単にあなたが面倒くさがりであるというだけなのかもしれない。

とはいえ実際のところあなたは、そのずれている時計が何となく気に入っている。

あなたがそんなことを考えだすときは決まって深夜である。ベッドに入って寝付けないとき、日中は聞こえないような物音が気になりだすことがあなたにはよくある。

それはチクタクという秒針の音かもしれないし、あるいは分針が動くときのコッ、というかすかな音かもしれない。この歌では、針と針がすれ違うときの微々たる針の逡巡が作中主体に知覚され、それがためらいという感覚で言い留められている。

眠れない夜にはかすかな時計の息遣いがふいに聞こえ出すという瞬間があって、あなたはそのとき、聴いた、聴こえた、と思う。何かこの世ならぬものの感じを受けて、あなたはすっと冷や汗を覚える。

そして朝になればすべて忘れてしまう。

人でないものへの共鳴性が強いという意味でとても水原紫苑的な一首。

記:柳元

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