香水の一滴二滴籠りゐる 藤本美和子 

所収:『俳壇』10月号

シンガーソングライター、瑛人によるヒット曲「香水」の歌詞〈別に君を求めてないけど 横にいられると思い出す 君のドルチェ&ガッバーナの その香水のせいだよ〉に如実に現れているけれども、香水というのは人の記憶に結びつくようで、嗅覚が主だってその人を記憶させるということはどうやらあるようだ。

これはつまり、香水というものは、自分の匂いが他者に与える印象を加法的に操作可能にするものであるということであり、言い換えれば、香水というものは他者に嗅がれることを前提として商業的に流通しているものであるということだ。風呂に入る文化をもたなかったヨーロッパで匂い消しとして隆盛したことに鑑みても諾うことができるだろうけれど、おそらく香水の起源は他者にある。他者からのまなざしを内面化した文化であればあるほど、香水の香もその国土に広がると云うものだろう(もちろんその香りそのものの効用も楽しまれてきただろうけれど)。

ただし掲句は、家籠りのためにただ自分のために香水を付ける。一滴、二滴。確かめるように手首に落とす。掲句に書き込まれているのはそれだけだけれども、家篭りと言えども日々必要な勇気や決断のために、自分自身のために、朝のルーチンに香水を付けることが組み込まれている。

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