アイスクリームりえちゃん文化が機能する 松本恭子 

所収:『世紀末の饗宴』1994 作品社

掲句、「アイスクリーム」と「文化が機能する」の間に投げ込まれた「りえちゃん」が不穏すぎる。どう理解すればよいのだろうか。「アイスクリームを食べているりえちゃん」という理解の方でよいのだろうか。いずれにせよ「りえちゃん」という私的な眼差しと「文化が機能する」というメタ的な眼差しが共存する違和感が本当に気持ち悪い。悪い意味でなく。

松本恭子は伊丹三樹彦に師事していた俳人である。第一句集『檸檬の街で』は俳句シーンにも女性の口語作家、つまり「俵万智」が現れたというれかたちで需要されたらしい(文字にすると改めてジャーナリズムは怖いなと思う)。

正直なところぼくは第一句集における〈恋ふたつ レモンはうまく切れません〉に関しては特筆するところはないように思えたし、だからアンソロジーや雑誌などで名前を見かけてもあまり乗り気で読むことは無かったのだけど、『世紀末の饗宴』に引かれている句を見てその印象が変わった。

夢の茂みに煙草をおとさないで下さい

涙の鱗だ キャタピラーで刻む地の神

乳房の中のサイケな神が声立てる

椿の木みえてゴリラの純愛かな

のぼりつめるひかりの踊り子摩天楼

なまこになまこがジャズのボリューム上げようか

お休みです 生まれる前の樹がさわぐ

どうだろうか。第二句集からは伝統化したと言われているけれども、伝統的な作風になる前にこのように前衛に接近するような(師系で考えれば紛れもなく前衛ではあるのだけれど)句を書き残している。

記:柳元

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