
新酒 平野皓大
色街をおもしろく見て青瓢
さしもなき日の対岸の鰯雲
掌にうつせる秋蚊脚を曲げ
神の旅カメラ一日して壊れ
魚鳥の栖をわたる秋の雲
人に雨虫売の眼の奥の熱
裏町をひつつき通ふ踊唄
秋扇いたづら広く開きけり
台風の留まらぬ眼に憧れて
今昔を新酒明るく温かく
短詩系ブログ
このアパートには住めない 柳元佑太
ぼくがまぼろしなのかもなあ 日溜りに睡ると見えて溶けてゆく猫
この町は河川敷から秋になり人々はそれをたまに感じる
テトラポットは波が好きだが仕方なく波を殺める だから墓です
人間が人間に抱きついてゐる、親密な可能性が高い
かなしみが展いた途だつて分かるあめんぼら薄れながら弾ける
ぼくといふ一人の他者の人称は、すべての色で光りかがやく
もしぼくがとても大きな龍だつたら、このアパートには住めないだらう
ママン宛の手紙を抜けだすな文字よ、宙をただよふ、蝶の寄り来る
虹はすべて何処かで蛇が死んだ合図だ、ママン、掃除をしてくれるなよ
合ひ言葉は会ふときに言ふので愛さ、Be Groovy Or B-Movie.
夏痩 吉川創揮
夏山やかつ丼のかつつゆ浸し
窓がらす疎にして空家かたつむり
芍薬や雨みつちりと遠き景
手花火を配る係となりにけり
空間にプールの匂ふどこかの子
釣堀や夢から上がらない私
切株の羅列の午後に伸びてゐる
思い出に巻かれて夏を痩せにけり
コンビニの青秋だとか言うみんな
カーテンの向かうのこゑは秋のもの