空と鍵束 丸田洋渡
墜ちながら声がきこえる昼寝覚
鍵として舌つかうとき向こうも鍵
わたしにもわたしが欲しい韮の花
淵も咲くほどの月光ふたりの脚
宇宙ごと錆びてしまえたらなとおもう
かなしみや岐路から岐路へ鳳蝶
夜も朝も祈念のように白飛白
宝石のあかるさにまで火葬式
夢として鍵に扉が過剰であった。
鍵束 空をひらいてまたとじて
※韮(にら)、鳳蝶(あげはちょう)、白飛白(しろがすり)
短詩系ブログ
空と鍵束 丸田洋渡
墜ちながら声がきこえる昼寝覚
鍵として舌つかうとき向こうも鍵
わたしにもわたしが欲しい韮の花
淵も咲くほどの月光ふたりの脚
宇宙ごと錆びてしまえたらなとおもう
かなしみや岐路から岐路へ鳳蝶
夜も朝も祈念のように白飛白
宝石のあかるさにまで火葬式
夢として鍵に扉が過剰であった。
鍵束 空をひらいてまたとじて
※韮(にら)、鳳蝶(あげはちょう)、白飛白(しろがすり)
Let me take you down, ‘cause I’m going to Violet Fields. 柳元佑太
言語野にすみれの咲ける季とわかる こゑがすみれの色になるから
あなたのこゑはぼくのこゑよりもおそい、それをうらやましいと思へり
孤児院に孤児がひとりもゐなくなり、まつ白い箱だけがのこれる
いつぽんのすみれの花のうつくしさに、こゑが追ひつくまで待てばいい
雨がふるまへの匂ひで、すぐ帰る決意のできる友だちであれ
雨のふるあひだでもつとも音がせり 雨があがつてゆける瞬間
ほんたうのこゑを包んでゐるこゑが剥がれてきても冷たくはない
すみれ野は午のあかるさ すぐそこに夏のあらしがやつてきてゐる
もうぼくは優しさを休ませてをり すみれ野のふるすみれの雨に
原つぱのすみれの花をつむための、想像の友だちを忘れない
鏡 平野皓大
軽躁の尿かがやきぬ夏の山
林間学校水筒の水腐りけり
遊ぶ蛭はたらく蛭を考へる
釣堀や旗の鈍さが腹立たし
住職の呉るる団扇に月並句
稿深く溢れ出すもの真桑瓜
幼眼を鏡と磨く吉行忌
夏痩や全集に木の臭ひして
塵芥ごきぶりと載せ渋団扇
夢に人現れなくて水中り
涼し 吉川創揮
夏立つや白熊の黄の腹這いに
蛇の衣うすぼんやりの続きたり
校庭のこゑを見下ろす目高かな
うっとりとスプーンの落下更衣
夕立や戸棚開けば奥匂ふ
花あやめ水たまりとは繰り返す
空つぽの胃のかたちある端居かな
白い天井泳ぎきし髪一束に
夏の蝶ペットボトルに吸殻が
てのひらの白くすずしく別れかな
the fifth season’s texture 丸田洋渡
律の移動わたしと接している闇
雨のなか花のきもちで石のきもちで
雨のあとの三角形が分からなかった
川に海に婚姻ふるびている日照
季 いくら剥がしてもまだある布の
空の書法織って織られて水に似て
心臓に魚のこころ見えている
死は一生分の閃きとともに
雲として現れたいよ格子窓
レモネード空はいつでも回転式
海 柳元佑太
雨乞を総出でしたり西瓜村
喩の魚の水得て炎天に浮くか
雨乞の雨が誤配や山向う
夏のゆめ海は何気に茨城に
夢くはせ獏可愛がる昼寝かな
うつつ食ふ獏は殺めて西瓜糖
幻か真夏真水に彳むは
見えねども虹ある日々は手漕舟
西瓜童子寝坊を軽く詫びにけり
夏雨滂沱茶漬は何の出汁なりや
旗 平野皓大
虚子選や冷酒日和に友がなく
箱庭のかなりを芝にして戻す
寂たり寥たり祭をのぞきけり
遠雷の気まぐれ雲を八雲とも
水中花地獄くんだりし給ふか
幽霊の真水のやうな下宿かな
汗吹かる起床の腸が熱うある
背が割れてゐるから殻や南風
くちなはの勾配に枝の太々と
沖膾旗を干してはひらめきぬ
遠く見る 吉川創揮
云ふ間にも夕立の粒見えてきし
十薬は遠のくやうな明け方に
押入の二階に兄や梅雨に入る
更衣マンション群といふ反射
アイスコーヒー氷を離れてゆく水
手の中に消えゆく氷のざらつき
向日葵や手すりに顎をのせてゐる
よこながに夏晴れてゐる鉄路かな
目を瞑るこはさを泳ぎ続きけり
蛾の軌跡縺れながらにうすあかり
亜麻色の燦 丸田洋渡
空に棹さして四千の演奏
うっとりと虹の骨子を呑みこむとき
萍をすべらせ川の正しい地図
流しそうめん場の小さな滝と洞窟
しずかな日のしずかな殺人水芭蕉
雨、雨、縫合の亜麻色のさなかに
羽のあるゆたかな舞踏草いちご
花潜ひかりの網にかかりつつ
浮上 いちめんにすずしくて合図は
繭こわれ渦のかたちにやまない燦
*萍(うきくさ)、燦(さん)
似非 柳元佑太
楠へ鳥突つ込むを更衣
筍を提げ人様の夢に出ん
赤鱏や海にもありて飄
一族の〆鯖好きも柿の花
雷や何はともあれ穴子寿司
夏風邪の鼻垂れて秘儀猫だまし
大學で似非學問や稲の花
カンフーは気の変幻や龍の玉
秋風や波乗り替へてあめんぼう
本積んで懈怠の民か秋昼寝
*飄(つむじかぜ)