天井 吉川創揮

 天井  吉川創揮

つちふるや目覚めて指のあるふしぎ

行く春のスプーンの銀を舌のうへ

葉桜や自転車の眩しき転倒

五月来ぬ顔に人影落ち掛かり

更衣こゑにのどぼとけの上下

翡翠を見し目いくつものまばたき

ほうれん草天井に雨騒がしき

枝に張る夜の分厚さや金魚玉

歩くこと思ふことへと夏休

夜が来る部屋に冷蔵庫と僕と

ひとかけ 吉川創揮

ひとかけ  吉川創揮

四月馬鹿セロハンテープのひとかけ

合傘にこゑ寄せあへる桜かな

水いちまい桜はなびら止めどなし

花冷や眼鏡に日だまりが二つ

睡る手はベッドを垂れてヒヤシンス

夢の終へ方の不明の黄風船

清明やうろくづの銀ときに虹

春光や目覚めは釣られたかのやう

潮干狩り黙だんだんときんいろに

春の雲椅子傾げては戻しては

歩く 吉川創揮

歩く  吉川創揮

考へる指を机に初日記

薺みちいつしか土筆みちへかな

口笛を吹くまなざしやみどりの日

げんげ田や遠きなにかの眩しさに

楓の芽大声の気分で歩く

間違えて振り向くやうに野の遊び

沈丁に自動販売機の黙が

スリッパの先へと脱げて宿の虻

この部屋よいくども雲雀のこゑ来る

夕映えの長引いてゐる田打かな

旧作 30句 吉川創揮

 自選30句  吉川創揮

闇つうと蛇の鼻腔を抜けて春
かなしみの耳の熱きよ紫木蓮
春月やさなぎの中の砂嵐
さびしさは鳴ればよいのに蜆汁
ラシャ鋏うつくしく卒業の日よ
頬にアスファルトの熱や蟻歩む
見てゐれば蟻見えてきし夕日かな
八月来る背中に鼻を押しつけて
たましひを曳く帆なりけり日焼の身
水菜食む遣唐使船すずしく朱
朝蝉や雑巾に濃きしぼり癖
青蜥蜴ペットボトルの潰れし光
空蝉の森やとほくが木に閉じて
金魚玉煙向かうは夕暮れて
うたごゑの天の高きを組み上ぐる
七夕や水たまりその反映も
秋祭夜があをぞらの続きに
待つとなき訃よ折紙の目なき鹿
秋風や魚の骨がたれのうへ
新蕎麦や踵に当たる旅鞄
柿たわわ病に眠り長くなり
手に林檎らららあなたの歌を継ぐ
松虫や水と夜とがすり替わり
墓石は人に翳りて初氷
凩や玻璃戸を走る雨よごれ
カレーの具ごつごつとある神の旅
冬雲雀まつげのごみが景色にひかり
牡蠣啜る太陽吊りて薄き街
夢かなし絨毯に毛の二三本
雪のちの朝よく晴れて金画鋲