Aphantasia 丸田洋渡

 Aphantasia  丸田洋渡

四季周回 心的レコードの蒐集

蝶が溶ける世界の溶け方を見ている

誤作動が紡いできたし継ぐつもり

水の多寡みている鴨と白鳥と

夢のなか雪のように来た郵便物

氷橋いつかの天国のあらまし

一対の鷺の想像力に賭ける

鶴もつづいて球体に そしてそして

見えにくい梯子の見えにくさについて

知的なふるまい詩的なうるおい貂を連れ立つ

 *蒐集(しゅうしゅう)、鷺(さぎ)、貂(てん)

庭師禮讚 柳元佑太

 庭師禮讚  柳元佑太

夜明まで詩書く花車なる身體もて八重垣造れその八重垣を

花と樹を從へしかば君の邪氣活潑無比か庭造らむに

丁寧な生活欲す消費者は倣へ毒杯仰ぐぷらとん

天使等の戀わずらひは輕症いから H,He,Li,Be, 氣樂なものさ

天使とて神神の遊擊手なればMerry Christmas! Merry Christmas!

庭師兼天使拂ひを招き入れいたちごつこの永遠愛撫

くれなゐの雌蕊雄蕊も性器なれ中庭に集ひ天使錯亂

呪禁もて天使去らしむ最高の雪降る庭の亂反射光

枝切鋏たはぶれに振る君が統ぶ月の面の海蒸發も

超現實主義者も儚く逝きて草濤に炭化麒麟の燃え殘り立つ

 *中庭(パティオ)

おもかげ 平野皓大

 おもかげ  平野皓大

大川のゆらゆら灯す昼障子

凩が美味き魚をもたらせし

皸や温のコーヒー缶を得て

雪の日を歩けど廓は昔なり

燃えさうな匂ひの酒よ枯柳

湯豆腐や好いたる人の俤も

電力のくもり一面雪見酒

飲食の暖簾をぬけて息白し

あかあかと宴の色や暦売り

ぬけがらの白の鼻歌置炬燵

正面 吉川創揮

 正面  吉川創揮

冬木の輪郭のありあまる乱立

砂時計冬の日にこの響きかな

落葉掃く時々に蛾の翅や腹

霜夜部屋そのままが液晶にあり

十二月扉の中に鍵の鳴る

空風にひらめく建築の途中

窓拭きのこんなにも冬夕焼かな

雑然と蒲団干されて向かいが家

雪二人うつとり黙りゐたりけり

後ろの正面の前にある枯木

Overlap 丸田洋渡

 Overlap  丸田洋渡

秋も冷えて針を正確に思う

嘘ですが水族館がありました。

鮫のことなら雰囲気として判るよ

霜夜はるか流線形の流行ったころ

舌禍と句 話すの上手いね昔のこと

柚子湯夕ぐれ失踪も死あつかい

牡蠣鍋や転生を確かめあった

夢という大きな疲れ得て狼

雪の日の気分は火 死なないでいたい ね

鳰ふたつの椅子のように凛

 *鳰(かいつぶり)

ツイ廢  柳元佑太

 ツイ廢  柳元佑太

午前はや空き腹の感都鳥

天皇もツイ廢もがな憂國忌

天皇やはれちんぽこに塗藥

三島忌やパンツの中へ幾夢精

寒寒と己が首視ゆ靈三島

三島忌の道連童子あはれめや

皇國や木枯勢を休なく

枝を離れ枯葉力學さやうなら

三島忌や日本腑拔けの啜泣

日本に火事また火事やパンケーキ

丈夫 平野皓大

 丈夫  平野皓大

望の夜の枯山水に生あれや

鬼すすき下痢の幻なる流れ

朝露のいつまで丸し雲作り

風の旬ここに風ある大花野

晩秋の住みよき膝を整ふる

四阿のこころ丈夫に月掬ふ

玉子酒神は昆布の遊びなの

十一月閉店が紙いちまいで

地下る寒き姿となりながら

竹馬のうしろ姿を電車から

 *地(つち)

ままごと 吉川創揮

ままごと    吉川創揮

白壁を蔦の跡這ふ秋の声

銀の秋舌に飴玉たしかむる

光より小鳥の帰りきて窓辺

行く秋の影いちまいは針仕事

ままごとの家族は落葉暮しかな

落ちてゐる光はねぢや山眠る

山茶花の学校に来るこはい夜

外灯のぼんやり道の鯛焼屋

おやすみは蒲団の中のまつくらに

絵の外は冬晴の陰翳の部屋

儀後 丸田洋渡

 儀後   丸田洋渡

儀のなかの奇術しかるべきときに鷲

十六夜の身の欠損に新たな身

半癒半壊人と鹿入り交じり

角見せて錯覚の木の裏を鹿

罰すこし快ひとりでに洩れだす葡萄

枝豆に眼一回転する思い

水と子と水の子のくるおしい舞踊

光には光語があり長い吐瀉

虚実ある雪の虚に腕朽ちてゆく

伝承を激しく理解した 雪月花

寫眞館 柳元佑太

 寫眞館  柳元佑太

たましひなんて信じないおまへVS魂魄を抜くカメラ・オブスキュラ

おまへは寫眞館のやうだな、あたたかい暗室を持つおのれのうちに

パブロフの犬なる暗がりの吾ら 愛せなくなるまで愛せたら

眼は窓か 光を容れし部屋に唯一人のための植物が咲く

夕暮のわれは犍陀多、起きしなのわが思惟からむ天井の蜘蛛

海底の圖書館は蒐集せよ夜夜の嵐に船沈むたび

ぎんなんの匂ひを厭ひ龍も嘆き合ひしかぺるむ期じゆら期

銀杏樹に火を虛視ればたちまちにSodomの町か火球降り繼ぐ

火に棲む魚の顏かたち言うてみよ、優しいおまへ優しいおまへ

天體の蝕の一ㇳ日も延々と蟲湧き出づる蟲食林檎

*圖書館(ビブリオテカ)、龍(ドラゴン)、虛̪視れば(そらみ-)