鯖中り 柳元佑太
鯖啞然釣り上げられて銀河見て
小金得て鯖と替へけり金木犀
俎や銀河が鯖の肌に凝り
秋鯖の肌にさしけり緋一瞬
秋鯖のあぶらかがやく醬油の面
あめつちや鯖の秋とて酒二合
おそ秋の銀河濃ければ中り鯖
曉やうれしきものに鯖中り
もの全て蒼ざめにけり鯖中り
秋鯖のうらみを吾の一身に
短詩系ブログ
鯖中り 柳元佑太
鯖啞然釣り上げられて銀河見て
小金得て鯖と替へけり金木犀
俎や銀河が鯖の肌に凝り
秋鯖の肌にさしけり緋一瞬
秋鯖のあぶらかがやく醬油の面
あめつちや鯖の秋とて酒二合
おそ秋の銀河濃ければ中り鯖
曉やうれしきものに鯖中り
もの全て蒼ざめにけり鯖中り
秋鯖のうらみを吾の一身に
狐花 平野皓大
鉄に木に屑を出すなり暮の秋
種固し桃の甘みをまとふゆゑ
白菊や帯のふかくを怯ゆる刃
変装の暗がりにあり狐花
ほつれ糸引きゆがむ唇鳥渡る
満山に吾ののさばる濃霧かな
霧の夜のどの箴言も通じあふ
秋の眼や蕉翁幻視することも
なきものの匂ひが口へ秋深し
遠ざかる網を見てゐる鰯かな
名 吉川創揮
行く夏の視野を子どもは唄にして
ソフトクリームまだ手を繋ぐ夏と秋
口づけは発明Tシャツでいい秋
あんどーなつ目合わせて秋風をゆく
名月の空に浮かぶは名地球
マンションの旬の秋晴のまま暮
霧の気の雨の奥まで街路灯
くちなはの雨いちにちを食べてゐる
水澄むとうらがへる寸前のこゑ
十月の眠気は光へと至る
Unclarity 丸田洋渡
あいまいな月の百年が経つ。
バスはもうすぐ いま季とされているものは
二つ三つ古いんだ地図は地図でも
こと切れて傀儡の蝶は葉のように
壊れた橋を壊したということにする
変梃な球体がまだ部屋にある。
月で歪んだ波で歪んだ月で歪んだ
もちろん花は もちろん花は もちろん花は。
鏡を介せば話せる。
○
宇宙からようやく見えるバスルーム
迂闊にも蜂の域から抜けられず
予兆なら疾うに来ている花祭
鈴生りのブルーベリーの卒業アルバム
口伝とはいつも胡乱に百日紅
せめて絵ならきれいな空を絵空事
○
帰ります 引き止められるつもりもない。
意味のない日没を見ている。
日時計のそれからを知らない。
光の中に太陽がある。
流速と風速のさなかにいる。
人は飽きた。
麒麟は麒麟と結婚することになるのか?
夢の水牛の足跡に沿って歩いた。
白犀が金木犀と出会うとき。
ずっと窓だと思っていた。
お湯が沸く。お喋りに時間を費やす。
この場合解決が目的ではない。
○
喩に浸かる。肩まで浸かりそのまま寝る。
蜂になら花せば分かるはずだった
葉がいたむ。いそいで鹿に駆けつける。
目覚めても空の心地の蛭下がり
○
顔を失くす。遺失物センターへ行く。
酩酊の建築物の五十階
六階と抑止力とが入れ替わる
街灯の下のドアから人が出てくる
いつも熾烈な天使の視察
宇宙にやり直しは効かない。
○
音楽が美味しい黒の喫茶店
名作は運をからめてからまれて
論戦に溶ける青空溶ける舌
温泉が血としてある温泉街へ
村いっぱいの薔薇のトランプ
寝て見ている悲喜こもごもの熱暴走
四阿を酔いの機械が醒めるまで
○
風景に私はいない。私はいない風景のことを。
厭に明るい眠たいダムを抱えている。
涙が紅葉し始める。
雪のからくりなら解けた。
呼ぶ声と呼ばれる声が同じになる。
終わっていない手品がある。
朱鷺(ニッポニア・ニッポン) 柳元佑太
石斧(せきふ)もてば觀念論者たる人よ花粉の河のとはの水切
全て虹彩は光の車輪なりや疑ふならば子猫の眼を見よ
濤音は濤より白く濱を打ち英語讀本(リーダー)に未完の冒險譚
朝に夕(け)に思ひ出す、ネモ船長はノーチラス號と共に沈みき
稻妻は靑を媒介とする電流、ダ・ヴィンチ手稿に魚釣のことも
逝く夏の洗ひ晒しのかひなとは汽車を知らざる靜脈鐵路
流星は例へば銳目(とめ)を持つと思(も)ひ阿修羅三面淚眼の晝
鶉溶けて潦なす夕まぐれ前職の源泉徵收票受く
言語野の草木全き紅葉してゐるかあるひはプシュケの火事か
蜜蜂の羽色は薄く黃金がかり植字工の掌に渚廣がる
まひるまのかの繩跳の少女等も繭と化す頃野菜屑煮らる
頬削る泪(なだ)こそあらめその溪に一匹の魚棲まはせむとす
朱鷺(ニッポニア・ニッポン)、戦後の恩惠としての拉麵、その油膜美し
鷹派政治家が料亭で魚を突き今や鼬の形狀とる風
氷且つ火なるは晚年のカント、土星とはとことん無縁の
金木犀とは金曜から木曜へ逆流する犀の群れのことなりき
象の記憶の新築增改築を請け負ふ施工業者のAutumn intern
敏感型皮膚炎(アトピー)の處方箋には天道蟲が祕めてゐる星空を處すとこそ
月の光は稀に凝固の針をなせり電氣冷藏庫から氷取り出す
猫にもながき夢精やあらむ月氷る一ト夜の月の光の中に
ぼくら幽靈(ゴウスト)だつたのだ、幾たびでも叩けば修繕る舊式のテレヴィ
もはやわれら水槽に浮く腦とほぼ異ならずとはにYouTube觀る
花粉てふ花の精子(スペルマ)浴び盡くし鼻炎か極東のアイヒマン達
ポッド湯沸の音聽きいざ腦內の都市を絨毯爆擊しにゆかむ
稅とりたてられ希死觀念も奪はれ、庭の茄子に充足しゆく紺いろよ
輕症い躁より逃れさす輕症い鬱欲してゐたり……土星近く來
葦船に吾を載せしは誰ならむ 吾なりき 明日視る夢のなかにて
水蛭子とは誰れの名なりやまかがやく渚に坐してとはの足萎
暗がりを好んで步む驢馬があり遙か彼方のからすむぎまで
敎育が國家の柱 輸入品カーペットのペガサスの毛皮よ
踊る 平野皓大
小鳥来る売地しばらく管残る
国またいつか一枚の秋簾
鹿の骨浜に焦げては転げては
根魚釣潮と踊ることにせん
口開くや蜜のごとくに今年米
ずつしりと光を吸へる柿を吸ふ
誰しもの秋の蛍に顔を寄せ
ばつさりとうしろを使ふ松手入
竜田姫田の一枚を膝に折る
ゐてくるるそちらも秋か月の道
未来 吉川創揮
青楓通りて日差し折り重なり
水母から水母の機関溢れかけ
紙は這う火に折れて睡蓮開く
冷蔵庫は未来の匂い眠れない
今日夏の終わりに一人一つガム
蜻蛉の目のつやつやの落ちている
迷路なぞる目玉渦巻く秋時雨
名月の団地に電波ゆき届く
中二階雨の伴うある夜長
考えたつもり林檎を並べては
Clarity 丸田洋渡
月は骰子ひと睡りして賭ける
○
雨が好き 空気一変する感じ
バイオリンみたいな夏至のお弔い
鼓笛隊が霊柩車を横切る。
ひやかせるだけひやかして蝶は夜
ふうりんの表裏と病理 ふうりんの
白鷺大通り誰の趣味の音楽
生まれそう蜂を殺してしまえる曲
洋楽の狂ったギター/狂った秋の
憑かれた雨一人なら歩かない道
○
死が待ってる バス停に指からませて
廃病院→動物園前→噴水跡
近未来が楽しみな時代は終わった
夏の死去思い出せないほど激務
不凍港にはほど遠い冷蔵庫
ときに好意は昆虫の動きで起こる
秋風や霊が心臓を脱ぐとき
錯覚のあなたが錯覚に気付く
月に兎聞きあきた箴言を思う
空中にぶらんこ一つ置いてある
ひつじ雲こころ渋滞しはじめて
夢にも夢をみている町にもぼたん雪
間欠泉しぶとく生きていかなくては
〇
あなたって誰のこと幕間の薔薇
〇
書きながら笑いそう桜云々
善悪はほんと曖昧スワンボート
あなたから架空のメール架空の季語
月の燦流行り廃りのある言葉
文字で視る空の庭・火の劇・藻の季
おどろきの短刀で刺す花火の橋
ふるえる葉ふりきる刀ふりくる雪
大陸に雪の機巧いつになく
どこか奇妙で妙に愛おしい砂漠化
絵には絵の暗喩があるからなあ 泉
この世の文字読みすぎるのもほどほどに
○
平和平和で盛り上がる鍋蓋に水
錆び付いた自転車で銃撃戦を見に行く
殺人はいともたやすく春が来るはず
復たとない毒の絶頂うつくしく
今は死後忌わしいひまわりを尻目に
○
醒めながら痴れて古典的なダンス
夏の皮膚まだ遠い天使の出番
電波塔 立体で蘇る夜
そよかぜの長い歴史に触れている
吹けば飛ぶ四季の指環をくすりゆび
透けてくる原風景に千の錠
考えたあとは葡萄樹で休むよ
歩きだす風の教唆を受けながら
胸中を月の客船流れつく
○
あなたから雨になる雪が降るから
顰蹙 柳元佑太
空の秋野球の夢を偶に見て
梨の木に林檎のやうな梨がなり
丹念に日輪太る案山子かな
殊の外顰蹙を買ふ墓參かな
寶なく古墳安けし赤蜻蜓
天體は惰性の線ぞ柿ふたつ
山猫も暑さを厭ひ月の雨
切株や月の光の熱だまり
銀河濃し蟲の世界に居候
天の川ひと筋かかる港かな
似ている 平野皓大
太宰忌の火鉢のうつる鏡かな
分かれゐて脚美しや夏の雨
夏芝居人去るほうへ波は寄る
嘴が来てしつとりと蝉分かれ
魚信来る夜は天上の涼しさに
夜長人とは花びらに埋めしを
非水忌のデパートに蝶青白く
枝ぶりの幽霊に似て木皮剥ぐ
おのれから車を出して生身魂
することのなくて墓参の葵紋