影踏み 吉川創揮
夜行バス一杯のゆめ窓余寒
風が春はじめる竹帚の並び
壺焼や松ごしの海平らかに
春の潮秩序正しく崖の層
縄があるゆるく春泥に捩じれて
三月の旅道連れの影を踏み
口ぶりの長き受付フリージア
春の海てふ航跡の混ざり様
糸桜むかしばなしの夜の暗さ
幽景に半月貼つてゐる宴
靴は白春のこの夜を抜け出すに
いぬふぐりすぼむ気球を寝かせ置く
一息を長く気球操縦士の遣ふ
気球灯す春のどこかの曙に
うみねこのひらめきあえば春日傘
時折の桜車窓を長回し
なぞなぞに感嘆の声春の山
春シャツや波の端なる泡その後
春の暮れなずみに地下のサイゼリヤ
帰路朧画中人にも手を振りて