

いかさま 吉川創揮
つくづくし小橋つづきに車揺れ
せせらぎにほぐれてゆくは落椿
永き日を流れて泡の明と滅
三月の海さかさまかいかさまか
てのひらを集めて薄き春の波
磯遊び未来ほどではない話
頭頂に眠気浮かびて黄水仙
坂の上から花ここはさも故郷
鶯のみどりのかかる写真展
海が夜に押し入るホテル華夕美
春障子蟹の解体騒がしく
朝寝組の寝相見てゐる一旦は
旧賽の河原蕨餅を買いに
春の奥仏の笑みを蔦よぎる
一人づつ一時のある春の潮

短詩系ブログ


いかさま 吉川創揮
つくづくし小橋つづきに車揺れ
せせらぎにほぐれてゆくは落椿
永き日を流れて泡の明と滅
三月の海さかさまかいかさまか
てのひらを集めて薄き春の波
磯遊び未来ほどではない話
頭頂に眠気浮かびて黄水仙
坂の上から花ここはさも故郷
鶯のみどりのかかる写真展
海が夜に押し入るホテル華夕美
春障子蟹の解体騒がしく
朝寝組の寝相見てゐる一旦は
旧賽の河原蕨餅を買いに
春の奥仏の笑みを蔦よぎる
一人づつ一時のある春の潮





自選五十句 吉川創揮
うわの空うつくしくあり十二月
空風にひらめく建築の途中
火の縦に山の眠りを走りけり
鯛焼の湯気雨に消え雨続き
貝睡るなかに変容霜晴れて
再生のざらつき如月磁気テープ
思い出のために見てゐる冷えた窓
夢の終へ方の不明の黄風船
きらきらと蝶をもみ消す指ふたつ
正確に騒がしく春印刷機
桜貝煙の固定された景
天秤のゆらめきときめき落し角
冷蔵庫は未来の匂い眠れない
水道を辿るイメージひょいと虹
紫陽花やゴミの足りないゴミ袋
八月はビルと空地を繰り返す
夏ふつと冷め淋しさが癖になる
ソフトクリームまだ手を繋ぐ夏と秋
コンビニの青秋だとか言うみんな
水溜まり覗いて行くは墓参
十月は影滲みだす梢・人
曼殊沙華口から糸を曳いてこゑ
咳く度に閃く池があるどこか
なんらかの塔欲しき水涸れの景
おやすみは蒲団の中のまつくらに
最後まで凧の落下と見つめ合う
時折の桜車窓を長回し
いぬふぐりこゑのかたまりの往来
茎立の遠くは雨のみつちりと
手の中に消えゆく氷のざらつき
更衣マンション乱立の反射
夏、空そこに立体の秩序が
一部屋に思考一杯しろめだか
グラジオラス写真の奥の扉開く
耳の熱自在に蜘蛛の足遣い
読点に躓きやすき白雨かな
覚めてより夢に着色風鈴も
犬いれば遠くにいけるえごの花
半夏生楽しい悲しい雨ざらし
カレーさらさら夏の夕べを余らせる
虫売や月はみんなの落とし物
銀の秋舌に飴玉たしかむる
金星や葡萄の皮の濡れ積もる
行く秋の影いちまいは針仕事
名月を空に据えるは名地球
目もまた穴もみじ落葉の溢れそむ
着ぶくれの天使飛び降りの現場に
十二月葬式で友だちになる
接吻に触れる鼻息・鼻・雪
夢は片割れ氷溶けはじめる頃の
2022年8月10日に、紀伊國屋書店国分寺店で開催していた「短詩型フェア なつ空にじいろ自由研究」のコーナーにおいて、暁光堂さまの選書スペースにて「帚」のフリーペーパーを設置していただきました。
その際のフリーペーパーの内容を公開いたします。ぜひご笑覧ください。
(サイズが大きいため拡大してご覧ください。)
pdfファイルはこちらから


天體による永遠 柳元佑太
天體や精密しく軌く蟻の觸覺
寂しうて氣海立泳ぐ吾ら
草いきれ天文臺は午睡り
夏至前夜柱時計の狂ひ打ち
大宇宙年かたつむり片目瞑り
晝顏や思惟の渚の水音聽く
八月や灣に息へる海自體
蓄積はへて腦は藏なり黴赤く
足元に地下鐵疾驅る李かな
方舟に天道蟲は乘り損ね
夏痩や月の惰性を見て過ごす
光線と共に天使の天降る金魚かな
天體やもぐらの穴が縱橫無盡に
相衝突り星鑄直さる蟬夕べ
薄羽蜻蛉月にもありて綿津海
思い思い 丸田洋渡
ふらふらと夏の水晶体は虚
夢で行ける塔一望の植物史
ここまで来ると雲も聞こえる玉簾
足が喋って顔落ちてくる昼寝覚
餡蜜や彫刻刀は久しぶり
膨らんで祭の中に家が入る
ねむいルビーの夜に婚礼滝の背景
月の孵化観る冷房の車から
青い部屋で蟻の代表者と話す
振り向いて夢遊の鹿はそれ以降
曇ったら傘が恋しくジャムの瓶
曲想に光を据えて噴水も
覚醒の映写機は海を流した
推敲は海にかもめを呼んできて
秋海棠思い思いの席に着く
一部屋 吉川創揮
絵葉書を密にばら撒き避暑の景
歯磨きの余りの腕にうすく汗
水羊羹時計かちこちそんな時
一部屋に思考一杯しろめだか
かみ・なり縦書きによくつんのめる
香水に透くる映画の券の褪
グラジオラス写真の奥の扉開く
夏、空そこに立体の秩序が
雨音の遠近感や瓶に茎
水道を辿るイメージひょいと虹
西日差す壁に見えるは何か顔
閉じてふと手酷く遠き冷蔵庫
ビール飲む一口ごとにじつと見て
シャワー浴ぶぐつと爪先立ち気分
まどろみに湿布の匂い夏の月
暮 平野皓大
而して小蛸とともに壺に住む
筒に棲む魚に杏の落としもの
あをあをと溶けて金魚の肉鱗
白目高岩を小突くも泡のごと
蟹来ると揺らぐ草の根木の皮
大なまづ糸に俗界へといたる
*
青蘆を薙ぎわたり来る風の中
暮らしつつ径を覚えて河鹿笛
青田風口乾くほど日をかさね
愚かものどもを祭は祀るかな
絵団扇や湖のをみなが瓜実の
秋隣鳥の貌してシーシャ吸ふ
(紹介)
〇暁光堂さんのHP https://gyokodo.com/
〇紀伊国屋書店国分寺店 https://store.kinokuniya.co.jp/store/kokubunji-store/

規則 吉川創揮
夏の雨句点を前に蹴躓く
夕焼の長引く解体工事かな
分離派や金魚密集のきらめき
日は一つプールの底の模様剥ぐ
皿に小さく日当たりのよいゼリー
野苺や雨のはじめに手をひらく
糸電話のこゑの解けてあめんぼう
背表紙を撫でながら夏至書架廻る
大雨は規則通りの蝸牛
壁四つ電球に空蟬露わ

ちゃち 吉川 創揮
桜貝煙の固定された景
正確に騒がしく春印刷機
桜鯛ゆーうつと書きその感じ
チューリップ電車の長いすれ違い
頬にむらさき君のあたりに迷う蜂
春雷の窓に貼られてゐる自室
百千鳥ちゃちな神像のほほえみ
天秤のゆらめきときめき春彼岸
印画紙に結ぶしずくの花曇

類縁 吉川創揮
細雪よさりの窓のその向かう
恋人は鏡のやうでコート着る
キキとララどちらがどちら北塞ぐ
鯛焼の湯気雨に消え雨続き
みやこどり次の駅には忘却す
青鮫は月の類縁歯を撫づる
水硝子硬直といふ見とれやう
クリスマス動物病院に集合
雪折にまなざし遠く研いでゐる
貝睡るなかに変容霜柱

開閉 吉川創揮
秋の蛇扉またたくように揺る
はんざきの体集めて寝るみんな
病室のナンバーで呼び合うも仲
記憶野のひろびろとゆく野分かな
雨長く天井に貼る風景画
雲・鯨顔をいくつも陰過る
秋燕ポケットたくさんでゆく
橡の実で虎に除算を教われり
雨の月虎のファルセットを遣ふ
硝子経て増える光や蟬の翅

そらで 吉川創揮
犬いれば遠くにいけるえごの花
病室の数字をそらで言ふ団扇
ガスタンク夏の夜は重層的に
水羊羹月の動きを早戻し
覚めてより夢に着色風鈴も
はじめからこの学校にないプール
向日葵の列食卓の真向いに
峰雲の影の手摺を滑りゆく
分銅に雀釣り合ふ泉かな
水泳の続きにトンネルの響き