

いかさま 吉川創揮
つくづくし小橋つづきに車揺れ
せせらぎにほぐれてゆくは落椿
永き日を流れて泡の明と滅
三月の海さかさまかいかさまか
てのひらを集めて薄き春の波
磯遊び未来ほどではない話
頭頂に眠気浮かびて黄水仙
坂の上から花ここはさも故郷
鶯のみどりのかかる写真展
海が夜に押し入るホテル華夕美
春障子蟹の解体騒がしく
朝寝組の寝相見てゐる一旦は
旧賽の河原蕨餅を買いに
春の奥仏の笑みを蔦よぎる
一人づつ一時のある春の潮

短詩系ブログ


いかさま 吉川創揮
つくづくし小橋つづきに車揺れ
せせらぎにほぐれてゆくは落椿
永き日を流れて泡の明と滅
三月の海さかさまかいかさまか
てのひらを集めて薄き春の波
磯遊び未来ほどではない話
頭頂に眠気浮かびて黄水仙
坂の上から花ここはさも故郷
鶯のみどりのかかる写真展
海が夜に押し入るホテル華夕美
春障子蟹の解体騒がしく
朝寝組の寝相見てゐる一旦は
旧賽の河原蕨餅を買いに
春の奥仏の笑みを蔦よぎる
一人づつ一時のある春の潮


水雲 平野皓大
煙らせてあり北国の春らしく
北へゆく旅情に似たる土筆かな
杉の花即身仏の歯はいづこ
ゆゑにいま近影撮らん磯遊び
穴出づる鰐うららかに叩かれし
春愁の蟹剥くときはちからづく
釜飯をゆつくりと蒸す春の月
この国はどこも麓で大朝寝
朝風呂を出でて水雲の噛みごたへ
苗市の玉蒟蒻の濃くありぬ
暗き戸の元禄餅や雛まつり
溝を澄むつめたい水にクローバー
菜の花の寺より便り送りたし
春昼を吠え回つたる寺の犬
日永なり三世の果ては此処がよし


ゆめみごこち 丸田洋渡
前泊の話長めに木瓜の花
煮卵は水菜のうえに春の昼
春はこれから法螺貝の試し吹き
転生のなんてすてきな檜苔
水温む即身仏の訳されて
しばらくはハロプロつづき春の車
三月のいくつかの海おもいだせる
夢はまだ少したいせつ花あせび
花札のように鳥海山を鳶
見えている山も風車も風力も
地衣類はゆめみごこちも山桜
蜂は腹抱えて笑う白椿
未来とは何の囮か沈丁花
春分の水草に水揺れている
永日の旅の写真をあつめては
※読み:木瓜(ぼけ)、檜苔(ヒノキゴケ)、鳶(とび)、囮(おとり)


土筆淨土 柳元佑太
雪解山河曙く夜行バス睡り得ず
鳥語にも流行りや花の木乃伊寺
卽身佛は遙かに花の展くを見
卽身佛の頭蓋の中の星無量
花粉症屍を有難く拜む
地より鈴の音春ながら春を惜しむ
步むべし土筆淨土のたヾなかを
拉麵にみんなで竝ぶ氷河かな
鳥獸蟲魚カアステレオは何流そ
目瞑れば春の暴風雨[あらし]や磨崖佛
見つゝ行く春山一路犬連れて
天頂に日輪冷ゆる杉花粉
海に日の溶けて眞白し杉花粉
佛像が佛師殺しや海は春
黃は蝶々犬畜生を寺飼ひに


悲鳴 丸田洋渡
水道をどのようにして秋の水
西洋の怪談五色唐辛子
金木犀きずつくきんみらいの杵
包丁を寝かせ切る柊の花
陸橋のおもしろい腰が覗くよ
悲鳴で列ととのう夜の大白鳥
人影を人が出てきてクリスマス
雪予想して楽器店前楽器
雪は雪打ち震撼のピアノ室
とぷとぷと除雪車は夜船のように
気持ちより言葉がイルミネーション街
ジェラートのピクセルアート雪ふる窓
稲妻に縫製が褒められている
氷湖底より銀の婚・金の婚
幻はどうしておいしそうな月
怖いなら黙っておかなくちゃ戦前
電柱に雪広告の高さまで
採氷や太陽をつかった時計
雪晴の手術台から身を起こす
椿展おおきな声がした気がした


氷林午餐(ひやうりんごさん) 柳元佑太
氷林へ婚擧げに來つ地下鐵(めとろ)にて
銀杏落葉水漬きて金や擧式明日
親と酌めば凍星擧式前夜たり
銀河凍つ窓邊に手紙(ふみ)を書く妻に
摩し合ひて飛べり不眠の綿蟲ら
冬日掌に熱く汲むべし妻化粧ふ
枯木らと妻の化粧ひを呆け待つ
むさゝびやドレス着ずとも抑(そも)妻美し
瀨に息(やす)む馬いや蒼き冬の婚
氷る馬たは易く出來異性婚
氷斧(き)る神父三人や午寂(ひるしづか)
日矢氷りあり敎會は椅子の默
吾らの爲めや讚美歌も狐火も
吾れ神を持たざるゆゑに冬木に誓ふ
家父長として野兎を追ひ廻す
風上へ鷹流れ初む婚いよゝ
梟の懶(ものう)き晝を婚禮す
雪意有り皿にサーモン橫たはり
來し方に惡友多き氷かな
ケーキ入刀水禽の柔(やはらかさ)





自選五十句 丸田洋渡
片栗の花サーカスのはなれわざ
襖から立方体が見えている
春のたましいの全体的な腐敗
足は汀に飛行機のおもてうら
レモネード空はいつでも回転式
子どもにも大人のめまい蝶撃つ水
かき氷法学に紙のイメージ
罰すこし快ひとりでに洩れだす葡萄
水鉄砲も当てるなら心臓に
一瞬の鵺の感電死と蘇生
梨重くして夜の雲朝の雲
水の建築すると眺めている方へ
月は骰子ひと睡りして賭ける
碁の部屋にせせらぎがせせらいでいく
筍や銀色の銀行に行く
きのこにも秘密いろいろ空とぶ雲
鮟鱇や炬燵のなかに足のゆび
ひととおり鮫ねむらせて雪の夜
うどん屋のくもり硝子や大白鳥
空間に斧おいてある雪のはなれ
木々の木の葉の葉脈のつめたい痾
角砂糖崩壊その他もろもろも
未来の風邪のみどりのくすり春三日月
空中の蜂に格子状のあやうさ
電源は遠いところに白椿
鏡みるとき蛇映りこむ蛇遣い
よい日よい風ひめおどりこ草の首
うぐいすの雲雀方言大切に
風として萍みていたら教室
かたつむり真っ逆さまのシャンデリア
そのころの草矢眩しく電気を感じる
眼とは愛とはさみどりの一枚布
藤はまだ一睡もしていない
鍵として舌つかうとき向こうも鍵
ともすれば死のねむけ梅花藻の花
眼球に老化と朽化ネオンテトラ
火が蠟に憑いている百物語
みんなしてオペラの俘からすあげは
天の川その水しぶき薄い服
はてしない印刷室に蛸がいる
川には良い思い出ばかり秋のUFO
ひつじ雲こころ渋滞しはじめて
秋海棠思い思いの席に着く
牡丹なら椿で倒すカードゲームは奥が深い。
胡桃ホテル戦争を話しますかね
天使と銃どちらかが勝つ雪催
雪煙には眼球が曇るなあ
雪の日の気分は火 死なないでいたい ね
文字はまだ手紙の上に鶴の恋
覚醒の映写機は海を流した
*
2020年4月から、2025年11月までの自選。
*
漢字の読みについての補足
襖(ふすま)、鵺(ぬえ)、骰子(さいころ)、萍(うきくさ)、俘(とりこ)。





自選五十句 平野皓大
春の日を浅くつくして豆腐桶
雲も木も左へ走り馬糞風
若駒や夢中を生れ来る如く
絵踏へと風に遅れてついてゆく
薄氷をあくびで揺らし布袋尊
落第や鯉のやうなる髭が欲し
一幅の半ばに孤舟田螺鳴く
馬むかし宛なく走る椿かな
のどけさに人集りあり馬賭博
好きな虫集めてゐれば大朝寝
春闘を官庁街の側から見
凧日和体操をしてゐたりけり
回廊の冷えてあるべし灌仏会
人去りしあとの寂しさ甘茶仏
花時をほとんど本へ神田川
雑木を愛し桜を守りけり
十薬の花ふつくらと上を向く
暮らしつつ径を覚えて河鹿笛
夏燕渚疲れの人びとへ
学問の雲の重なり立葵
すーつと来て朝顔市の風貌に
遊ぶ蛭はたらく蛭を考へる
夜釣人水虫のこと楽しげに
夢に人現れなくて水中り
来るものは来て宵宮の席余る
太陽のあらねど暑し瓜膾
その攫ふ肉が最後やバーベキュー
敗戦日クロール疲れ腕に脚に
国またいつか一枚の秋簾
秋雲のこの大きさは二人掛け
相撲観覧予定あり屍に
馬券散る秋晴の牝馬をたたへ
ゐてくるるそちらも秋か月の道
君からも見ゆる芒を飾りけり
衣被ながき梯子と仕事して
きちきちや掘り捨てられし芋を踏み
幽人枕蟲跳びまはる跳びまはる
糸瓜や母親はふと蛇のかほ
虫老いて喜怒哀楽を自在にす
北吹くや亀はぽつくりゆくものと
その人の愛せし玩具日短
かく引けと大根引に手を重ね
寒灸心が泣いてゐる人に
日が通り風が通りて竹瓮かな
毛糸編む心の翳り小さくし
初空に糸の流るることすこし
長く浮く三日の凧の渚かな
寒稽古雑巾掛をみしみしと
絵襖の虎のごろんとしてゐたり
あたたかし寝物語に象が出て





自選五十句 吉川創揮
うわの空うつくしくあり十二月
空風にひらめく建築の途中
火の縦に山の眠りを走りけり
鯛焼の湯気雨に消え雨続き
貝睡るなかに変容霜晴れて
再生のざらつき如月磁気テープ
思い出のために見てゐる冷えた窓
夢の終へ方の不明の黄風船
きらきらと蝶をもみ消す指ふたつ
正確に騒がしく春印刷機
桜貝煙の固定された景
天秤のゆらめきときめき落し角
冷蔵庫は未来の匂い眠れない
水道を辿るイメージひょいと虹
紫陽花やゴミの足りないゴミ袋
八月はビルと空地を繰り返す
夏ふつと冷め淋しさが癖になる
ソフトクリームまだ手を繋ぐ夏と秋
コンビニの青秋だとか言うみんな
水溜まり覗いて行くは墓参
十月は影滲みだす梢・人
曼殊沙華口から糸を曳いてこゑ
咳く度に閃く池があるどこか
なんらかの塔欲しき水涸れの景
おやすみは蒲団の中のまつくらに
最後まで凧の落下と見つめ合う
時折の桜車窓を長回し
いぬふぐりこゑのかたまりの往来
茎立の遠くは雨のみつちりと
手の中に消えゆく氷のざらつき
更衣マンション乱立の反射
夏、空そこに立体の秩序が
一部屋に思考一杯しろめだか
グラジオラス写真の奥の扉開く
耳の熱自在に蜘蛛の足遣い
読点に躓きやすき白雨かな
覚めてより夢に着色風鈴も
犬いれば遠くにいけるえごの花
半夏生楽しい悲しい雨ざらし
カレーさらさら夏の夕べを余らせる
虫売や月はみんなの落とし物
銀の秋舌に飴玉たしかむる
金星や葡萄の皮の濡れ積もる
行く秋の影いちまいは針仕事
名月を空に据えるは名地球
目もまた穴もみじ落葉の溢れそむ
着ぶくれの天使飛び降りの現場に
十二月葬式で友だちになる
接吻に触れる鼻息・鼻・雪
夢は片割れ氷溶けはじめる頃の