穴惑ばらの刺繍を身につけて 田中裕明 


所収:『田中裕明全句集』2007 ふらんす堂

高校生のときから愛唱している句の一つ。穴惑というのは冬眠する穴を見つけ損ねている秋の蛇のこと。何という取り合わせだろう、と裕明には何度も静かに驚かされる。掲句も取り合わせと解するべきなのだろうけれども、ぼくの脳内には、ばらの刺繍を身に付けた蛇が、えっちらおっちらのんびりと彷徨う様子が目に浮かんで、微笑ましい気持ちになる。子供の頃そんな絵本を読んだような、読んでいないような。

ところで先日Twitterで堀田幾何さんが、『花間一壺』の句はBL読みが出来るという旨を述べていらっしゃって、たしかにこの句集は男色の感じがあるもんなぁと改めて思ったりした。BL読みには普段首をひねることが多いけれど、『花間一壺』に関してはそういう読みはかえってテクストを厚くするような気もした。

そう思わされるのは、裕明の師である波多野爽波には〈秋の蛇ネクタイピンは珠を嵌め〉という句があって、おそらく裕明の句はこれを本歌取りしているのではないかと思う。そこには師とのたわむれにも似た親しさの表明があるはずで、それがBLというかたちで消費してよいものなのかは別としても、なんだか非常によろしいものに感じられるのである。

記:柳元

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