




自選五十句 吉川創揮
うわの空うつくしくあり十二月
空風にひらめく建築の途中
火の縦に山の眠りを走りけり
鯛焼の湯気雨に消え雨続き
貝睡るなかに変容霜晴れて
再生のざらつき如月磁気テープ
思い出のために見てゐる冷えた窓
夢の終へ方の不明の黄風船
きらきらと蝶をもみ消す指ふたつ
正確に騒がしく春印刷機
桜貝煙の固定された景
天秤のゆらめきときめき落し角
冷蔵庫は未来の匂い眠れない
水道を辿るイメージひょいと虹
紫陽花やゴミの足りないゴミ袋
八月はビルと空地を繰り返す
夏ふつと冷め淋しさが癖になる
ソフトクリームまだ手を繋ぐ夏と秋
コンビニの青秋だとか言うみんな
水溜まり覗いて行くは墓参
十月は影滲みだす梢・人
曼殊沙華口から糸を曳いてこゑ
咳く度に閃く池があるどこか
なんらかの塔欲しき水涸れの景
おやすみは蒲団の中のまつくらに
最後まで凧の落下と見つめ合う
時折の桜車窓を長回し
いぬふぐりこゑのかたまりの往来
茎立の遠くは雨のみつちりと
手の中に消えゆく氷のざらつき
更衣マンション乱立の反射
夏、空そこに立体の秩序が
一部屋に思考一杯しろめだか
グラジオラス写真の奥の扉開く
耳の熱自在に蜘蛛の足遣い
読点に躓きやすき白雨かな
覚めてより夢に着色風鈴も
犬いれば遠くにいけるえごの花
半夏生楽しい悲しい雨ざらし
カレーさらさら夏の夕べを余らせる
虫売や月はみんなの落とし物
銀の秋舌に飴玉たしかむる
金星や葡萄の皮の濡れ積もる
行く秋の影いちまいは針仕事
名月を空に据えるは名地球
目もまた穴もみじ落葉の溢れそむ
着ぶくれの天使飛び降りの現場に
十二月葬式で友だちになる
接吻に触れる鼻息・鼻・雪
夢は片割れ氷溶けはじめる頃の

