




自選五十句 柳元佑太
春や昔隕石(メテオ)が龍を鏖(みなごろし)
晝(ひる)から火球と阿難陀(あなんだ)も聞かなんだ
王獨り僞史に棲みなす椿山
春なれや繍(ぬひとり)の禽(とり)深みどり
花粉症殊に酷き日大江死す
耳は貝卒業式を少し寢て
夜は谷を浸しつゝ來し櫻かな
孕み犬よろめきありく菫かな
囁(つつめ)きは口唇(くち)の快樂ぞ鬱金香(ちゆーりつぷ)
戀なりや天に燕の軌の交差
雲樓(くも)展き奧の雲樓(くも)見ゆ蕗薹
瞼とは肉の窗布(カーテン)百千鳥
その戀の顚末虻の反射(てりかへ)し
病み犬にして大食や靑嵐
傑作の虹立ちにけり蠹(きくひむし)
傍(かたはら)に餡蜜を置き謀(はかりごと)
革命もはや世に育ち得ず扇風機
炎帝の御使(おほんつかひ)と懇(ねんごろ)に
吾が體臭部屋に膿みをり氷菓の棒
アイスティー微糖生き甲斐あるにはある
炎天の銀座へ結婚指輪(ゆびわ)買ひに行く
CoCo壹の今此所讚を僞風土記
天體や精密しく軌(うご)く蟻の觸覺(つの)
蟻食獸(ありくい)の長舌戾る蟻百付け
死穢溜り都市美しや水母の觸手(て)
かの眠猫(ねむりねこ)へ月の手夥(おびただ)し
水澄みて毛澤東の廣額
總國(ふさのくに)ビジホの蔦の惰(だらしなさ)
星垂れて靈(たまゆら)の濃き鳥獸(とりけもの)
耳も又た黃なるを糞れり天の川
梨佛おのれを衆生(ひと)に食(じき)せしむ
釣り上げしそばから鯊を蔑(ないがしろ)
常闇の耳底(にてい)の寺の小禽(ことり)かな
龍膽や王廢されて毛尨戲(けむくじやら)
葛飾北齋紅葉づる腕(かひな)ひた隱す
形式が鹿を捨象し骨の花
地價上がる芒の濾せる川光
美しき淡冬虹や掏摸の巴里
空割れて何か幻視(もろみ)ゆ枯木の街
腦天壞了(のーてんふぁいら)藪の齒醫者は天卽地
希臘かつてEureka頻(しきり)木の實降れよ
煙突(けむりだし)眞冬怒れる汝に付けむ
むさゝびがばさつと展き巨きけれ
微熱の日ふと木菟の舌思ふ
かの鶴の腦の微弱(かよは)き電氣(えれきてる)
なきごとく未來ありUNIQLOのセーター
百貨店(デパート)の柱の卷貝(かい)よ雪豫報
院試受く電氣炬燵に脚入れて
蒙古斑沖の鯨と交感す
齒の如き燈臺へ旅(ゆ)く氣象病

