似非 柳元佑太

 似非  柳元佑太

楠へ鳥突つ込むを更衣

筍を提げ人様の夢に出ん

赤鱏や海にもありて飄

一族の〆鯖好きも柿の花

雷や何はともあれ穴子寿司

夏風邪の鼻垂れて秘儀猫だまし

大學で似非學問や稲の花

カンフーは気の変幻や龍の玉

秋風や波乗り替へてあめんぼう

本積んで懈怠の民か秋昼寝

 *飄(つむじかぜ)

団子と茶 柳元佑太

 団子と茶  柳元佑太

妹ゆ捨仔猫飼ふ謀

紅梅や男は尿を見つつ出す

積もらない雪が降りをり桜鯛

啓蟄や火星にも地震あんなりと

祭果て獺飽食の魚まくら

神領に仏のおはす木の芽かな

峠にて朝寝夕寝や団子と茶

恋猫や寺の厨に賽の音

虹が立ち易い蕨の緩斜面

春の水蒸発をして美しい

 *謀(はかりごと)、獺(をそ)

火の丈 柳元佑太

火の丈  柳元佑太

春は名のみの墨滴に溺れし蚊

竹の秋僧多くして寺静か

火の丈を吹いて育てし蕨かな

花冷や鴎飛び交ふ山ふもと

花夕の流れげむりも雨意のさま

として受け取る春星の遅延光

木の眩暈朝日が夜を阻却せり

春雷や飯少量を茶漬とし

ありふれて雨降る日々や蕗薹

その記憶皐月岬のものならん

獏 柳元佑太

獏  柳元佑太

浴室に鰐飼ふ夢を町ぢゆうの人間が見し春のゆふぐれ

孔雀その抜けし羽根こそ美と云はめ蓄電したる様と思はば

鉛筆を作る仕事につきにけり日に二本づつ作る仕事に

草木を抽象化せし文字(もんじ)らに雨季は花咲く気配感する

月は日の光を盗み輝けり黒猫の眼を見てより思ふ

婚約の日に飼犬を選びにゆき入籍の日に受け取りにけり

ウヰスキーを海と思へば忽ちに黄金(わうごん)いろの魚跳ねたりや

優しさゆゑ運河逆流してゐたりただ一匹の鮭の遡上に

夏は夜たとへば蛇の抜け殻は風と親しくなるために要る

かすれきし虹を補ふ働きをこころと云へり虹ぞ消えたる

旧作 50句 柳元佑太

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 自選50句  柳元佑太

太陽も鬱どきなりや籠の雉
囀や翠ときをり紅に
白梅の捻れびらきや氷りつつ
蕗の薹雪の予報を信じける
梅咲くや僧叱られて快楽顔
鳶湖上雨と疑ふほど霞む
月は飴色西行の忌なりけり
バベル以後塔のかなしさ燕
山に憑く春夕焼や壺に味噌
春山河海老天麩羅の海老小さき
君が居にいつも虻をり名与えん
蝶々は誰が手紙ぞ夕山河
照るごとくありや皐月の旅ごころ
さはれずの墓たちのぼる紫雲英田は
葉一片風の柳を離れけり
虹鱒を釣らば虹さう信じゐき
樺一樹四方雲海の照り返し
本名も如何にも僧や立葵
仁和寺はいちにち雨や鱧茶漬
喪ごころや麦茶の中をうごく茶葉
 土佐 二句
われの影われよりも美し土佐夕焼
鰹潮鳴りどほす夜はさびしけれ
特に詩才なし蚊に喉(のみど)ありやなし
おもへらく獏も夢みむ夏大根
杉越しの日輪太り夏燕
一と夏の沖の温度を李かな
水へこみありあめんぼの脚の先
ひまはりの長はなびらの先の蟻
なみおとになみたはぶれてなつのくれ
秋雲や千切れて飛べる雲の中
黄泉も暑からむと扇買はれけり
といふ夢みて忘れけり蛇の衣
秋蝉や金色ならむ仏陀の屁
 阿蘇 二句
とろろ面(も)に醤油浮くなり球のまま
夜の阿蘇山(あそ)とろろ泡噴(あぶ)くは音も無し
天の川犬死ぬたびに犬飼うて
月光に折皺なけれノオトに詩
おもへらく木枯は木を愛してゐる
詩がよく出来るふるさとが氷る頃
軽雪虫重雪虫よ触れ飛べる
ひとときを火は柱たり雪兎
覚めぎはの夢ましろけれ裕明忌
 成人式 二句
雪眼雪焼なりし君等に幸ひあれ
雪を投げ合うて笑うてさやうなら
冬や汝が眼削げば中に真珠あらん
どか雪や僧が日替り定食を
ふくろふを統ぶる位にあられけり
教科書のをはりの雪の詩なりけり
中心へ火が燃えすがる火の中で
日が氷りつつ差しゐたり籠(こ)に雲雀