鯖壽し 柳元佑太

鯖壽し 柳元佑太

松風や夢も現も紙魚太り

火の中へ鮎燃え落つる晝寢かな

鯖壽しの鯖釣る夢も百日目

蟻地獄木の皮少し空を飛び

金魚來よ圖書室守の頬杖に

プロ野球面白かりし扇かな

夏萩を割つて出てきし犬の顏 

天道蟲幾年拭かれ柱瘦す

日輪ふとる蛞蝓の橫つ腹

魚涼しかの園丁も赤子抱き

手品 吉川創揮

手品   吉川創揮

鳥影の通過の夏の川模様

蟻行くを指歩かせて附きにけり

抱く膝に金魚一匹づつ泳ぐ

手中にも神様のゐる夜店かな

よもつひらさかバナナの皮の熟れてある

陰翳を束ねダリアや君に合ふ

海いちまいハンカチ散るは咲くやうに

夏蝶は対称で耳打ちし合ふ

記憶殖やす日記に羽虫潰れある

秋近し鳩の顔つき一列に

Rumble 丸田洋渡

 Rumble   丸田洋渡

かたつむり真っ逆さまのシャンデリア

これもまた宇宙のオルゴールに当たる

蛸が蛸で線路が線路でよかったよかった

まるで疾風透けていて子どもたちって

毒の小瓶 光の小瓶 そのスケッチ

蛾のせいで踏んだり蹴ったり蛾のきもち

空もまた拷問される側 晩夏

棋士黄昏馬はいつかの葉桜の下

夜とはいえ 氷山を考えぬいた

闇で合う星の帳尻こんぺいとう

船見  平野皓大

 船見  平野皓大

来るものは来て宵宮の席余る

避暑泰平ほんたうによく眠る

素麺を茹でて一筆箋を選り

磁は石をさざめく暑さありにけり

学問の雲の重なり立葵

諺の鮎すり抜けし熊野筆

傘贈るこんどは船見遊山へと

炎昼の暑さをふつと魚信来る

茄子高いことぶつくさと控書

明日よりあれば嬉しと冷奴

Nietzsche 柳元佑太

Nietzsche   柳元佑太 

いまだ梅雨來ず古書店主ジャズかけ寢

また僞の記憶の水母浮沈【うきしずみ】

番犬の須臾の優しさ濃紫陽花

ひと待ちの極み涼しき cafe GOTO

Nietzsche is dead. 蝉の寫眞をインスタに

短夜や汝が陰毛に棲む夷狄

六月はたとへば鮫の欷歔【すすりなき】

旱星視て五輪可と卜【うらと】へや

立泳咳病【しはぶきやみ】を恐れつつ

われら神を擬すか汗かき人を殺め

反復 吉川創揮

反復   吉川創揮

不意に朝其に躓ける蟇

夏休世界ルーペに間延びして

蝸牛法要にのみ遣ふ部屋

青大将踊りながらに食べ進む

炎昼は白柱終のなき鬼ごつこ

蜘蛛の囲に蝶の穏やかなる回転

八月はビルと空地を繰り返す

汗の腿挟みに回転木馬かな

夕焼や紙の袋の匂い抱く

水羊羹月見て月となるさなか

樹になる  丸田洋渡

 樹になる  丸田洋渡

あちこちに林間学校の名残

変声の植物のような段階

りりかるに林立と落葉を聴く

古い風に惚れ惚れの蜘蛛が揺られる

円了忌空間で人擦れちがう

となれば誤記 夢中夢を増殖する鏡

まぼろしの空の鳩尾ながびく雨

樹の裡に在るああ空鳴りの反射炉

うつらうつら樹になるバグの五月を迎え

倚りかかるいま夏を夢みている樹に

*鳩尾(みぞおち)、裡(うち)、倚りかかる(よ-りかかる)

在廊  柳元佑太

 在廊  柳元佑太

若鮎や宙で給油の戦闘機

腰かけてピアノ冷たし鯛の海

囀や金緣眼鏡放光す

キャラメルの銀紙に春惜しみけり

鯉幟渚の砂の冷たさに

在廊の画家のはにかむ金魚かな

はつなつのとほきくぢらをおもふなれ

音もなく鬱にぢり寄る簾かな

ぢつとしてゐる沢蟹と鬱を分つ

国破れても五輪とや冷蔵庫

夢中  平野皓大

 夢中  平野皓大

馬むかし宛なく走る椿かな

若駒や夢中を生れ来る如く

戻るには遠くありけり花筏

後朝の眉間のいろの土匂ふ

木蓮にしばらくぶりの雨女

春の雨猿股猿の如く濡れ

金閣のパズルを飾る春夕べ

わしづかむ本四五冊や春の夢

囀りや老婆の口のさぞ乾く

蛇穴を出でてしきりに腹を巻く

春の夢 吉川創揮

 春の夢   吉川創揮

ささくれの喉まで花の夜の降りる

乾杯の高さに春の月ありき

鶯や手首に青を催して

恋歌よ時間は桜呑み干せる

長き日の嘔吐に遣ふ筋あまた

草餅や公園に散る白きこゑ

空耳の木々を光ながらに風

瞬きとしやぼん玉とが搗ち合へば

行く春の扉に小さき扉あり

白魚や目で天井に夢記す