the fifth season’s texture 丸田洋渡

 the fifth season’s texture  丸田洋渡

律の移動わたしと接している闇

雨のなか花のきもちで石のきもちで

雨のあとの三角形が分からなかった

川に海に婚姻ふるびている日照

季 いくら剥がしてもまだある布の

空の書法織って織られて水に似て

心臓に魚のこころ見えている

死は一生分の閃きとともに

雲として現れたいよ格子窓

レモネード空はいつでも回転式

亜麻色の燦 丸田洋渡

 亜麻色の燦  丸田洋渡

空に棹さして四千の演奏

うっとりと虹の骨子を呑みこむとき

萍をすべらせ川の正しい地図

流しそうめん場の小さな滝と洞窟

しずかな日のしずかな殺人水芭蕉

雨、雨、縫合の亜麻色のさなかに

羽のあるゆたかな舞踏草いちご

花潜ひかりの網にかかりつつ

浮上 いちめんにすずしくて合図は

繭こわれ渦のかたちにやまない燦

 *萍(うきくさ)、燦(さん)

再演 丸田洋渡

 再演  丸田洋渡

葉書くる花過ぎとこしえのダンス

芍薬とその周辺が思いだされる

むかしほど細かく見えて作り雨

白玉や空を初めて見たときのこと

そのころの草矢眩しく電気を感じる

くらやみにおける白蛾に似て脳は

わたしより前の記憶の水中花

鷺になり光を追う点滅のさなかに

羽と天秤くらがりを鮎なめらかに

ただ一人祭のなかで思いだした

到来 丸田洋渡

到来  丸田洋渡

凧という字のうつくしさ空で照る

おぼろ月氷引きずる音のして

空中の蜂に格子状のあやうさ

蜂がいる部屋から蜂がいなくなる

春むずかし心は球根のように

花なずな二枚になっている未来

菜の花や骨のかがやき身の中に

手の先に足がある夢金盞花

瞳孔が砂礫のように漠としている

わたしがわたしで 取りこぼしそうだ

木の痾 丸田洋渡

木の痾  丸田洋渡

木々の木の葉の葉脈のつめたい痾

木が傾くと氷山もそのように

陽ぐるいの木が聞いている春の雪

のどかさや鳥に通じる木の符丁

ある日ある昼木はみずからを鳥瞰する

ひかる針みちる囀ひろがる木

春霖や朽ちていくことにも慣れて

花ふぶき木が占めている実の応答

火に人にいつか消されて花曇



椅子が春こもれびに木に戻りだす

旧作 50句 丸田洋渡

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 自選50句  丸田洋渡

文と文法おとずれてから開く雉
蝶にあるたましいと同じ構造
絵から絵へうつる日永やふかみどり
蜂は蜂に分かる字を空にきれいに書く
語りは語りにまで延びていて蝶の錯
初蝶の手渡すように離れけり
書きぐせが本重くして桜貝
葉は山に蝶は閃きぱたんと死
太陽は回っている火白木蓮
鷲の巣や静かな場所で書き直す
文字から墨へ墨から文字へ雪柳
林を想いうつろになる雪洞
流暢に春の砂丘は多楽章
石鹼玉音感のある子どもたち
一行のかろやか花の半音階
飛行機が桜に入りゆっくり出る
落花めまぐるしく彼方ときめく目
月古りてゆく春の高鳴るテニス
まひるまの砂絵の麒麟油かぜ
こでまりの花やゆうべを一番愛す
手を三度ふつてお別れ梨の花
目は空にありつつ話す水ようかん
海から崖を見たことがない冷奴
すずしさや海に港の未完成
夕凪を座りつづけて絵の気配
泉に手を入れ泉を手に入れる
朝曇すぐ手紙はばたく区域
翡翠を引用しては紙を飛ぶ
光それが扉だと知る山椒魚
水からくりいつも上からくる天使
光の子みんな腕無しすべりひゆ
秋冷や光は鳥をもてはやす
眩しさに鹿は一枚へと変わる
鵲や白紙に収まらぬ発光
秋蝶は一昨日の百の構想
すいすいと月が昇って絵が乾く
銀杏散る窓がまたたくまに濡れる
月の暈人体という柔らかさ
太陽も咲くことあれば菊の花
金木犀歩道広くてかなしい午後
銀杏散る庇のように陽のように
沖に季の似かよひあつてひと休み
初雪は原稿用紙に似ていて書く
短日や花を究めてゆけば咲く
凍鶴のうしろを向いて止まりけり
鉱石のうつくしき示唆十二月
マフラーに雪なじむまでの遮断機
こんなにも雪が降りそう白鳥に
飛ぶように泳ぐ白鳥飛ぶときも
書くうちにあかつき軽くなる氷