旗 平野皓大

 旗  平野皓大

虚子選や冷酒日和に友がなく

箱庭のかなりを芝にして戻す

寂たり寥たり祭をのぞきけり

遠雷の気まぐれ雲を八雲とも

水中花地獄くんだりし給ふか

幽霊の真水のやうな下宿かな

汗吹かる起床の腸が熱うある

背が割れてゐるから殻や南風

くちなはの勾配に枝の太々と

沖膾旗を干してはひらめきぬ

いろは 平野皓大

 いろは  平野皓大

雨乞や暑を焚きしめて蛇は息

餅を焼くための団扇や天気雨

気にいつて臍ある神を水団扇

姫糊をうすくつめたく夏の月

製本の紐のいろはも青すだれ

白百合を乾かす風に帆は西に

山嶺に日矢のかからん鯖の肌

舟虫や鉄のあからむ日本晴れ

呉の越のぐらぐらしをる舟遊

つややかに細みの針を鯵の口

ろまん 平野皓大

ろまん  平野皓大

雑巾の届かぬ蜂の乾びをり

貌鳥の腹より下を木末かな

ふつふつと水掃く日々や蕨餅

びいだあまいやあ涅槃の潦

義士祭の枕にはしる涎かな

花時をほとんど本へ神田川

外恋しくて荷風忌に誘はれて

競漕にろまん軽やか袴の地

初恋の如く蚯蚓をうち眺む

なじませる夕の冷えや更衣

落第 平野皓大

落第  平野皓大

蘖や日に日に下校あかるくて

ボクシングジムに花粉を左右

拳ふりかざしてアトム春の風

落第の怒りは握りをさまりぬ

はかなきものに学舎の剪定を

奔流の底も力の鮎のぼる

見えすぎて春の霙の漠として

天地のこゑおぼろげに野遊を

花疲れ湯浴みに肌が蛇のごと

山の子に蝶の賑はふ素足かな

旧作 30句 平野皓大

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 旧作30句  平野皓大

読みさしのままに一日や涅槃雪
蜜を吸ふ蝶にとぼしき花の幅
山ざくら鳶まつくらな目を瞠る
虫喰ひに指をあてがふ青しぐれ
さみどりの香水が瓶かたつむり
海に雲きのふの飯は饐えゐたる
うつすらと息づく蛇を葉擦れとも
夏みかん貧しき頬をふくらます
流鏑馬や弓は肘より張りつめ来
炎帝の靴を焼べたる火の国か
天草にわたる橋あり夏日あり
天草やからから干して蛸通り
来よ来よと象が鼻うつ夏野かな
雲へ鳶刈田は音のとほりみち
月の肌艶やかに雲はざまかな
手に芒あれば日が暮れ膝小僧
虫籠や昼のつぺりと隅田川
船頭や波に捨て菊ただよひ来
捨つる湯に熱のすこしく菊枕
思ふとき汽車に乗りたる夜火に雪
寝不足の手に蓬莱のさみしさは
島国になにはともあれ初日かな
鰤釣や曇の越後をゆらぎ見る
返り花とは一息の呆けなる
冬ごもり庭に出るさへおそろしく
天平の氷柱に音のありさうな
鑑真がまぶたに透かす冬日かな
傘あげて傘を通せり成人日
籠り髪くるくる風邪の神とゐる
ノストラダムス忌ここらは海にあらざりき