プリズム 丸田洋渡
さらさらと秋は絶版海の石
濡れる石英の構造の荷解き
◇
月もまた飽きれば毒に観覧車
雷の遠いむかしの木のおもちゃ
弟はうとうととびたとうとしている
階段は屋上止まり金水引
来たる日の明くる日の洞みたいな戸
秋分の午後のぷりずむぷりずまず
脚色はきみを神へと七竃
◇
火星にも霊いたりして掘炬燵
長月のつなげてレゴブロックの家
封筒の入る封筒秋暑し
カンパニュラ通りすがりの時計店
のうぜんかずら猫は集会の時間
かろやかに浮く風神の風贔屓
鯛飯や城なくしては籠城も
鯛の目の上を醤油が濡れている
部屋よりも足跡多く塩鰹
地縛とは霊とは紅葉狩のこと
袖みえて舞だとわかるデルフィニウム
◇
ホルンに手突っ込んで吹く未草
船内にピアノが無くてピアニスト
夢よりも喇叭細かく描けるはず
ふくろうの毛布のごとき掛布団
蝙蝠のうわさうのみのうわのそら
犬つれて行くべき祭たとえ雪でも
◇
考えたオーロラのこと旅のこと
雪の日の白米に沢庵なんて
雪の鹿 悪はあるべくしてあるか
憂いとは螺旋するもの雪の花
雪が糧 熊のねむりが底つくまで
これ以上温泉に雪よ降りやめ
夢溶けて銅に鋼に春の犬
◇
さすらいの卵八ヶが丘の春
桜には夢と機関車予め
骨董に菫のかおり灰神楽
花みずき醤油皿にもお気にいり
口からも言葉でてきて蓮華躑躅
蝶にのみ聞こえるのなら喜んで
◇
草原に気球の影が消えていく