虫の夜の星空に浮く地球かな 大峯あきら

所収『星雲』ふらんす堂・2009

残暑とて秋も深まれば、夜風は確実に冷ややかな硬質さを帯びてくる。となると蟋蟀、螽斯、松虫に鈴虫、おのずから様々な虫の声に気付かれるだろう。世に充ち充ちてくる虫の声ごえに没入してゆくとき、その命の音響のなかで、星空も迫りくるような物質感をもって迫ってくる。そのときふと気付けば宇宙飛行士のごとき視点から、わたくしは地球を眺めている。見上げていた星空のその星の中の一つがいつの間にか地球なのである。この視線の移動というよりも、身体そのものが宇宙に浮きあがるような感覚はやはり独特である。かような視座変換のダイナミズムを持ち合わせる句はあまり覚えがない。たとえば正木ゆう子〈水の地球少し離れて春の月〉は一点から静的に眺めているように思われる。しかし掲句は虫の声への没入を媒介として動的に地上から宇宙へと移動するのである。

大峯あきらは昭和4年(1929年) -平成30年(2018年)奈良県生まれ。生涯を吉野に暮らす。浄土真宗僧侶かつ哲学者で専門はフィヒテや西田幾多郎。俳句は高浜虚子に師事、昭和28年波多野爽波の「青」創刊に参加。昭和59年「青」同人を辞し、同人誌宇佐美魚目らと「晨」を創刊、代表同人。毎日俳壇選者。句集に『吉野』『群生海』など。

記:柳元

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