真青な中より実梅落ちにけり 藤田湘子

所収:『黒』角川書店 1987

梅の実が落ちたことを詠んだ、ただそれだけの一句。
「真青」という語の選択に表現の妙がある。ただ「真青」と色を書いているだけなのに、 梅の枝に多くの葉や実が密になっている映像が浮かび、それとは対比的に落ちていく一つの梅の実が映える。
「真青」という色によって捉えているから、この句の梅を見ている人は葉や実それぞれでなく、それらを一つのかたまりとしてぼんやりと梅を見ているのだろう。しかし、梅の実の落下、という動きによって一つの「実梅」を細かく見るように視線の在り方は変する。そんな観察者の認識の推移まで「真青」から見えてくる。
梅の実が落ちた、ただそれだけのことがそれを見る人も含めて徹底的に表現されている。

記:吉川

風の建物の入口が見つからない 種田山頭火

所収:『定本山頭火全集 1』春陽堂書店 1972

 風の建物とはどんな風だろう、といつも想像している。そしてその度にいつも形を変える。風の建物自体見つかっていないのか、風の建物は見つかっているが肝心の入口が見つからないのかは分からないが、この句の主体は探し続けている。どこかにあるはずの、 いつか見つかるはずの入口を。
 無季自由律なのもまた風らしい。涼しくあやふやで、不安定な感覚。

 山頭火には風の句が多い。〈死をまへに涼しい風〉、〈風の明暗をたどる〉、〈つきあたつてまがれば風〉……。今ごろ、風の建物のなかで風として遊んでいるかもしれない。

記:丸田