唇をなめ消す紅や初鏡 杉田久女

所収:「ホトトギス雑詠選集 冬」より 大正11

なめ消すのは唇か紅か、この句を見るたび悩ましい。唇「に」ならば簡単、鏡を見ながら唇に付着した紅に気がついて、舌で舐め消そうとしているのだろう。しかしあくまで掲句は「を」、唇を紅で塗り潰す。そして消えてしまった原色の唇。このとき鏡越しに見ている粧われた唇は、果たして自分のものといえるのだろうか。消すのは唇か紅か、妖艶さに導かれる不思議な一句。

記:平野

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