獏 柳元佑太
浴室に鰐飼ふ夢を町ぢゆうの人間が見し春のゆふぐれ
孔雀その抜けし羽根こそ美と云はめ蓄電したる様と思はば
鉛筆を作る仕事につきにけり日に二本づつ作る仕事に
草木を抽象化せし文字(もんじ)らに雨季は花咲く気配感する
月は日の光を盗み輝けり黒猫の眼を見てより思ふ
婚約の日に飼犬を選びにゆき入籍の日に受け取りにけり
ウヰスキーを海と思へば忽ちに黄金(わうごん)いろの魚跳ねたりや
優しさゆゑ運河逆流してゐたりただ一匹の鮭の遡上に
夏は夜たとへば蛇の抜け殻は風と親しくなるために要る
かすれきし虹を補ふ働きをこころと云へり虹ぞ消えたる