
円 平野皓大
貝独楽を回すに夢の鰻かな
露寒し雨師の庭なる瓜の牛
長汀をながらの雲と盆帰省
あたふたと俵円かな負相撲
宮相撲遠巻きにして欅樹下
梨に虫集まつてをり雷多し
踊子に肌音頭とうつところ
掌にうつせる熱も秋気かな
楼閣のここにありしか轡虫
流れ星洗ひたてなる事忘れ
*円かな(まど-)
短詩系ブログ
夏痩 吉川創揮
夏山やかつ丼のかつつゆ浸し
窓がらす疎にして空家かたつむり
芍薬や雨みつちりと遠き景
手花火を配る係となりにけり
空間にプールの匂ふどこかの子
釣堀や夢から上がらない私
切株の羅列の午後に伸びてゐる
思い出に巻かれて夏を痩せにけり
コンビニの青秋だとか言うみんな
カーテンの向かうのこゑは秋のもの
Let me take you down, ‘cause I’m going to Violet Fields. 柳元佑太
言語野にすみれの咲ける季とわかる こゑがすみれの色になるから
あなたのこゑはぼくのこゑよりもおそい、それをうらやましいと思へり
孤児院に孤児がひとりもゐなくなり、まつ白い箱だけがのこれる
いつぽんのすみれの花のうつくしさに、こゑが追ひつくまで待てばいい
雨がふるまへの匂ひで、すぐ帰る決意のできる友だちであれ
雨のふるあひだでもつとも音がせり 雨があがつてゆける瞬間
ほんたうのこゑを包んでゐるこゑが剥がれてきても冷たくはない
すみれ野は午のあかるさ すぐそこに夏のあらしがやつてきてゐる
もうぼくは優しさを休ませてをり すみれ野のふるすみれの雨に
原つぱのすみれの花をつむための、想像の友だちを忘れない