Dreamy 丸田洋渡
蕎麦屋にも諍ひあらむ春の水
鏡みるとき蛇映りこむ蛇遣い
春逝くや懐かしい隕石の匂い
岬へは歩くほかない風露草
譜は指にそれから音に月日貝
風として萍みていたら教室
遠くから思い擡げて白八汐
瑠璃小灰蝶夜はいつわること多き
花札に海の札なし雨燕
めいめいの夏服ドールハウス露天
かき氷死はいちはやく君のもとへ
巻貝に夢のようなやどかりが来る
終わるまで風鈴刑の畳かな
室外機から室内が洩れている
向日葵や人に歯ごたえあるように
眠るときには骨群れて扇風機
夏の耳は二枚オルゴールの毒性
みんなしてオペラの俘からすあげは
邃い賽の回転もみじ鮒
王手から盤動かさず糸蜻蛉
種みせて絡繰が事切れている
さるのこしかけ辞書が夢みるなら語の
水都あらわる笛のかたちに水吹けば
きくらげのような雲あり描きたい絵
不仲から広がる星座しろい息
緞帳に鶴二三匹降りてくる
短日の火に飛行機が持ち上がる
ろんろんと貂の寝言に人が出る
零下まだ肌は剥がれることなく身
霞草すこし短い几に
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○諍(いさか)ひ、萍(うきくさ)、擡(もた)げて、白八汐(しろやしお)、瑠璃小灰蝶(るりしじみ)、俘(とりこ)、邃(おくぶか)い、もみじ鮒(ぶな)、緞帳(どんちょう)、貂(てん)、几(ひじかけ)