金沢 平野皓大
北国や雪後の町をいくつ抜け
南天の葉の浮きさうな寒の雨
雪だるま百万石のどろまじへ
梅咲かす川淋しくて明るくて
ほつそりと加賀の軒端の雪雫
この国の鱈を昆布で〆るとは
木の芽風入浴剤を撒いてみん
餅食つてちらつく粉は粉雪は
雪吊にいつしかの鳶腹を見せ
駅のまへ雪吊の丈そろふなり
短詩系ブログ
金沢 平野皓大
北国や雪後の町をいくつ抜け
南天の葉の浮きさうな寒の雨
雪だるま百万石のどろまじへ
梅咲かす川淋しくて明るくて
ほつそりと加賀の軒端の雪雫
この国の鱈を昆布で〆るとは
木の芽風入浴剤を撒いてみん
餅食つてちらつく粉は粉雪は
雪吊にいつしかの鳶腹を見せ
駅のまへ雪吊の丈そろふなり
模造 平野皓大
へべれける一人二役年籠り
寝正月胃と懐におなじもの
ありんすと廓の燃ゆる初鏡
姫始血潮柔らかなるめぐり
綿虫や林京子を読みながら
なま肉の炎に縮む布団かな
雪眼鏡模造の月の青ざめる
呆然のそのまま棒へ風邪籠
電球もむき出しにある初詣
冬帝に首晒しても包んでも
おもかげ 平野皓大
大川のゆらゆら灯す昼障子
凩が美味き魚をもたらせし
皸や温のコーヒー缶を得て
雪の日を歩けど廓は昔なり
燃えさうな匂ひの酒よ枯柳
湯豆腐や好いたる人の俤も
電力のくもり一面雪見酒
飲食の暖簾をぬけて息白し
あかあかと宴の色や暦売り
ぬけがらの白の鼻歌置炬燵
丈夫 平野皓大
望の夜の枯山水に生あれや
鬼すすき下痢の幻なる流れ
朝露のいつまで丸し雲作り
風の旬ここに風ある大花野
晩秋の住みよき膝を整ふる
四阿のこころ丈夫に月掬ふ
玉子酒神は昆布の遊びなの
十一月閉店が紙いちまいで
地下る寒き姿となりながら
竹馬のうしろ姿を電車から
*地(つち)
新酒 平野皓大
色街をおもしろく見て青瓢
さしもなき日の対岸の鰯雲
掌にうつせる秋蚊脚を曲げ
神の旅カメラ一日して壊れ
魚鳥の栖をわたる秋の雲
人に雨虫売の眼の奥の熱
裏町をひつつき通ふ踊唄
秋扇いたづら広く開きけり
台風の留まらぬ眼に憧れて
今昔を新酒明るく温かく
円 平野皓大
貝独楽を回すに夢の鰻かな
露寒し雨師の庭なる瓜の牛
長汀をながらの雲と盆帰省
あたふたと俵円かな負相撲
宮相撲遠巻きにして欅樹下
梨に虫集まつてをり雷多し
踊子に肌音頭とうつところ
掌にうつせる熱も秋気かな
楼閣のここにありしか轡虫
流れ星洗ひたてなる事忘れ
*円かな(まど-)
盛衰 平野皓大
太陽のあらねど暑し瓜膾
背中ある炎天に坂急なれば
鉄橋を舌のみこむよ日傘
白桃を歩める蝿も岐阜提灯
盛衰のトランプ遊び唐辛子
秋の川くじは袋に屑となり
迎火にくるぶし膨れ草の花
光る遠のくそれらが魂や茸汁
流燈の巷たやすく通りすぎ
衣被ながき梯子と仕事して
鏡 平野皓大
軽躁の尿かがやきぬ夏の山
林間学校水筒の水腐りけり
遊ぶ蛭はたらく蛭を考へる
釣堀や旗の鈍さが腹立たし
住職の呉るる団扇に月並句
稿深く溢れ出すもの真桑瓜
幼眼を鏡と磨く吉行忌
夏痩や全集に木の臭ひして
塵芥ごきぶりと載せ渋団扇
夢に人現れなくて水中り
旗 平野皓大
虚子選や冷酒日和に友がなく
箱庭のかなりを芝にして戻す
寂たり寥たり祭をのぞきけり
遠雷の気まぐれ雲を八雲とも
水中花地獄くんだりし給ふか
幽霊の真水のやうな下宿かな
汗吹かる起床の腸が熱うある
背が割れてゐるから殻や南風
くちなはの勾配に枝の太々と
沖膾旗を干してはひらめきぬ
いろは 平野皓大
雨乞や暑を焚きしめて蛇は息
餅を焼くための団扇や天気雨
気にいつて臍ある神を水団扇
姫糊をうすくつめたく夏の月
製本の紐のいろはも青すだれ
白百合を乾かす風に帆は西に
山嶺に日矢のかからん鯖の肌
舟虫や鉄のあからむ日本晴れ
呉の越のぐらぐらしをる舟遊
つややかに細みの針を鯵の口