市 平野皓大

 市 平野皓大

 下町の寒さを云へる二階かな

 ゆふ寒や竿はなれゆく隅田川

 鴨過ぎてエレベーターの中透けて

 行く年の縦横部屋の並びをり

 仲見世をながれてたまる年忘れ

 濁々とふるへる牡蠣の火にあれば

 火を浴びて牡蠣は世の花壺に花

 信楽のふぐり拭かれて山眠る

 鬼がはら鯛焼の餡甘きこと

 暮市の値段楽しや眺めゆく

類縁 吉川創揮

類縁 吉川創揮

細雪よさりの窓のその向かう

恋人は鏡のやうでコート着る

キキとララどちらがどちら北塞ぐ

鯛焼の湯気雨に消え雨続き

みやこどり次の駅には忘却す

青鮫は月の類縁歯を撫づる

水硝子硬直といふ見とれやう

クリスマス動物病院に集合

雪折にまなざし遠く研いでゐる

貝睡るなかに変容霜柱

動物  丸田洋渡

 動物   丸田洋渡

ひととおり鮫ねむらせて雪の夜

鮟鱇や炬燵のなかに足のゆび

くすり指ほどの涙を兎から

文字はまだ手紙の上に鶴の恋

失神を思いのままに白鳥戯

砂ふる宿ひとり泳いでくる鮃

狐の婚みにいくお米だけ持って

羚羊が時を見ている時もまた

林まで行く悲の熊は喜の熊と

化けにくい朴の一枚狸の旅

大袈裟に海をつかって蛸の夢

蛤や美しい数列の桁

花に乗る手が蜂のとき蟻のとき

うぐいすの雲雀方言大切に

田螺には読める水かも魔法瓶

みずうみの藻の流行を燕かな

しばらくは蛙中心葉も雨も

かたつむり孔雀を前にして歌う

蛍なら水の研究室にいる

思春期をなまぬるい猫と暮らした

犀はいま宿題のなか唐辛子

濡れている闇を蜥蜴の暮らしぶり

かまきりは喪の叢を伐るところ

望郷は糸張りながら絡新婦

吸いこんで月は猪に泥色

天鵞絨に天という文字豹の昼

鉛筆は鷺に持たせて雨の丘

   ○

鯉とともに鮎を弔う川を流れ

跋文に鳥を書くこと鳥に言う

ぼたん雪あらゆる物を動かして