出目 平野皓大

出目 平野皓大
 
あるときの船尾に冬の日がつのる
人波のほうへ甍の千鳥ども
     *
双六の出目にまかせるあそびかな
日向ぼこ芯を抜かれてゐるごとし
熊穴へ入りてなにかしらをかかへ
     *
大群の柳葉魚のまがひものである
     *
かずのこの粒のからまる痰を噛む
垂らされてゐる照明におでん待つ
手を出さずして綿虫を求めたる
すかす屁に肚のしまりや雪礫
     *
紫の座り踊りのちやんちやんこ
あゆみ来る紙のふぶきの雪女
     *
鰭酒のみるみる冷えて鰭が浮く
枯蘆を横目にさはさはと言ひて
     *
春を待つ双眼鏡に目がふたつ

凍蝶旅團  柳元佑太

蝶旅團  柳元佑太

百貨店(でぱーと)の柱の卷貝(かい)よ雪豫報

孤獨とは島嶼(しまこじま)なれ沖に鮫

    ※

冬空を旅(ゆ)く一と筋の花粉粒(かふんりふ)

氷るものなき蒼天(あをぞら)や猶ほ氷る

人住めば有穢や凍蝶旅團なす

流星の冷たく火(も)えて土龍の死

    ※

山茶花や群衆(くんじゆ)の糞を菌が喰(を)す

    ※

冬の僧獨り星閒徒涉(かちわた)る

僧乘せて飛ぶ座蒲團(ざぶ)もあり冬銀河

月の光暈(はろ)凍てをり猫の艶天與

    ※

寢て覺めて鼯心地(むささびごこち)ひた滑空(すべ)る

寒き大氣が月光を濾過すなり

科學寒し人類既に月を步(ほ)し

    ※

繪を颯と視枯蘆原と云ひしのみ

天充たす雪の氣配に樹樹騷ぐ

明晰に禽影走る雪の上

雪の日の地平の山の蒼げむり

    ※

雪蒼く降り込みゐたり舊象舍

冬の太陽(ひ)の熱拜む鳥獸蟲魚

水枯れて葉書は葉たること忘却(わす)れ

妖/宴  丸田洋渡

 妖/宴  丸田洋渡

聖と俗 瓦斯灯に朦朧の川
灰神楽長い廊下は家を離れ
宴にはあやかし甘やかし寄鍋
酒と鶴 い 胃の中で渦になって
戸惑いながら牛鬼を食い終わる
がしゃどくろ眼になりそうな月は空に
時の砂へ時の光が葛の葉裏
一瞬の鵺の感電死と蘇生
電球の巧みに点いて懐手
すこしずつ氷雨が天むすの天に

燭光をかなしみの目目連に
人間が障子の向こう側に居る
占いは全て的中瓶の雲丹
人よりも言葉進んで天狗に風
ポインセチア奇岩ならべて岸に波
そよ風に遺跡を透視する
流星群草の夜には竪琴を
惑星に鷺と排水溝あれぱ
落日の烏は暗号のように
宴・蜜月・夢みるほどに強い酒
耳朶に鉄の冷たさ塔跡地

唐傘に一本脚その下駄の雪
打鐘・暖簾に・腕押し・腕押し・夜の鼬
うどん〈冷〉そば〈温〉あと少しの揚げ物。
効くまえに毒の宴の皿いくつも
顔のない風が竜巻まで太る
薔薇を巡る戦争をしてみたかった
まぼろしの凍るヘリコプターの羽根
色んな丘へ色んな傘を置いてきた
羚羊は石碑で苔の詩が読める
くるみの木差し障りない話して
呪いとは口偏ブロッコリーの花

妖精に骨いくつある雪時雨
衣擦れの音が増えスノードロップ
孔雀にも湾のよろこび眠りの雪
雪煙こんな壺にも発情期
火のなかに腕ひとつずつポーチュラカ
つらら生る幽と妖とを併せもち
水面に二輪馬車ある天井画
雨に酔う爽の公園竜舌蘭
鬼と篝火なつかしい宿を囲んで
水瓶の零れをめぐり甲と乙
剣/骨牌/スローモーション/骨牌/剣

亞 月の洞に二匹は弓なりに
妖と艶やがて一つになる踊
蝸牛から扁桃体へのお手紙。
光度輝度あらゆる文字が目に入る
光あつめて硝子の花緒硝子の中
つぎつぎに月迫り上がり宴の旬
見たことのない螺子締めて百年後

カラマーゾフ的 吉川創揮

カラマーゾフ的  吉川創揮

  兄弟の会食霙から雪へ

  ペーチカや夢に蒸し返される罪

  北塞ぐ故郷は墓を残すのみ

  密室を開く証言毛糸編む

  冬薔薇愛は跪かせる凡て

  接吻に触れる鼻息・鼻・雪

  雪に日の燦を私にあなたを

  冬帽を胸に伏せ立つ色欲も

  いろいろに紙幣美し破り捨てむ

  なんらかの塔欲しき水涸れの景

  人助けの気分は吹雪く只中に

  差し出せば大きく頼りなき葱よ

  着ぶくれの天使飛び降りの現場に

  罰の皮膚感覚たしかな冬の水

  枯園やかしこき人と話少し

  曇り日の川の表面山眠る

  十二月葬式で友だちになる

  枯蟷螂一神教の言う「あなた」

  思い出のために見てゐる冷えた窓

   夢は片割れ氷溶けはじめる頃の