所収:『儚々』角川書店 1996(「儚」は異体字)
『儚々』は飯島晴子の生前最後の句集。
飯島晴子には非常に表現が平明な句がいくつかある。例えば『儚々』に収録されている〈寂しいは寂しいですと春霰〉〈昼顔は誰も来ないでほしくて咲く〉とか。掲句もそうした系列の句として位置づけられるだろう。
平明ではあるが、読解が簡単というわけではない。一見これらの句は直情的だが、言葉が上滑りしているとでもいうべきかそこにある意図や感情は見えてこない。
一つ一つは小さい萍が水面を埋め尽くす様には淡い恐ろしさがある(私が集合体を見るのが嫌いだからかもしれない)し、萍の生える場所は水流のない池であるから停滞した印象も受ける。「つながるまで」という表現からは、萍の成長する時間が見えてくる。
この句は様々なイメージを喚起するが、それに対して何の文脈もなく「待つか」と思う主体が登場することが、前段で述べたこの句の読みにくさである。
理屈を飲み込んで、この句で展開されるイメージとそれを待つ主体の二物衝撃に思いを馳せることがこの句を読むにあたっては必要な気がしている。
この二物衝撃が表現の平明さ口語的な軽さとは裏腹な、切迫した印象を与える1句にしている。
記:吉川