回転ドアの中でマスクを外して入る 池田澄子

所収:『拝復』ふらんす堂 2011

575のリズムに当てはめて読もうとすると〈回転ドアの/中でマスクを/外して入る〉の776となる。575に慣れている身からする違和感があるし、もたもたとした感じの印象を受ける。また、同じ字余りでも最後の下5が下7となっている句よりも、下6はおさまりの悪い印象が私としては強い。
それでは、この句を例えば「回転ドア押しつつマスク外しけり」としたところでそちらの方がいい句か、と言えばそんなことはない。

この句のリズムの気持ち悪く間延びした感じ、もたもたとした言葉の連なりが回転ドアを通過するという特殊な時空の感じに繋がる気がしている。
目的地は正面にあり、まっすぐに進めばいい筈なのに、弧を描いて遠回りさせられているような気がしてくるあの構造、そこを通る時に間延びする時間。

回転ドアを通過する時間はそんな妙な長い時間でありながら、マスクを外すのにかかる時間と同じぐらい短い時間でもある。

回転ドアを通過する光景にマスクを外す動作を合わせることで、内容は何気ない。けれど句の奇妙なリズムがその何気なさから独特の感覚を引き出している。

記:吉川

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