花冷に紛るるほどの怒りかな 岩田由美

所収:『春望』(花神社 1996)

季節に振りまわされる。訳も分らぬ理不尽な仕打ちをうける事がある。例えば、梅雨の間はどうしようもなく地を這ってしまう。最近は気温も湿度もはね上がり、突如として気分が急降下する。花冷なんてもってのほかだろう。寒さがやっと緩んできたのに、ぽんと思い出したように寒い日が来る。しかし季節に対して怒ってみても仕方がない。全くもってやり場のない怒りである。

本当に怒っているときは我を忘れる。掲句は我を忘れない程度のちょっとした怒りで、季節に対する怒りもまたそうだろう。一心不乱に季節に対して怒れる人間がいるなら、ほんの少し、けれど心から尊敬する。生活していてムッとすることが少なからずある。正確にはその時点では別段気にもとめなかった事が、後でふり返ってなんだかなあと思う。そうした怒りはやり場があるだけまだマシで、季節はやり場がない。やり場があるならば多少は紛れる。季節への怒りといっても、我を忘れるほどではないだけまだマシである。怒りのグラデーションは確かにある。些細な怒りが積み上がらないように上手く季節とつき合っていきたい。掲句を読んでそう思う。

記:平野

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