亜麻色の燦 丸田洋渡

 亜麻色の燦  丸田洋渡

空に棹さして四千の演奏

うっとりと虹の骨子を呑みこむとき

萍をすべらせ川の正しい地図

流しそうめん場の小さな滝と洞窟

しずかな日のしずかな殺人水芭蕉

雨、雨、縫合の亜麻色のさなかに

羽のあるゆたかな舞踏草いちご

花潜ひかりの網にかかりつつ

浮上 いちめんにすずしくて合図は

繭こわれ渦のかたちにやまない燦

 *萍(うきくさ)、燦(さん)

似非 柳元佑太

 似非  柳元佑太

楠へ鳥突つ込むを更衣

筍を提げ人様の夢に出ん

赤鱏や海にもありて飄

一族の〆鯖好きも柿の花

雷や何はともあれ穴子寿司

夏風邪の鼻垂れて秘儀猫だまし

大學で似非學問や稲の花

カンフーは気の変幻や龍の玉

秋風や波乗り替へてあめんぼう

本積んで懈怠の民か秋昼寝

 *飄(つむじかぜ)

いろは 平野皓大

 いろは  平野皓大

雨乞や暑を焚きしめて蛇は息

餅を焼くための団扇や天気雨

気にいつて臍ある神を水団扇

姫糊をうすくつめたく夏の月

製本の紐のいろはも青すだれ

白百合を乾かす風に帆は西に

山嶺に日矢のかからん鯖の肌

舟虫や鉄のあからむ日本晴れ

呉の越のぐらぐらしをる舟遊

つややかに細みの針を鯵の口

天井 吉川創揮

 天井  吉川創揮

つちふるや目覚めて指のあるふしぎ

行く春のスプーンの銀を舌のうへ

葉桜や自転車の眩しき転倒

五月来ぬ顔に人影落ち掛かり

更衣こゑにのどぼとけの上下

翡翠を見し目いくつものまばたき

ほうれん草天井に雨騒がしき

枝に張る夜の分厚さや金魚玉

歩くこと思ふことへと夏休

夜が来る部屋に冷蔵庫と僕と

再演 丸田洋渡

 再演  丸田洋渡

葉書くる花過ぎとこしえのダンス

芍薬とその周辺が思いだされる

むかしほど細かく見えて作り雨

白玉や空を初めて見たときのこと

そのころの草矢眩しく電気を感じる

くらやみにおける白蛾に似て脳は

わたしより前の記憶の水中花

鷺になり光を追う点滅のさなかに

羽と天秤くらがりを鮎なめらかに

ただ一人祭のなかで思いだした

団子と茶 柳元佑太

 団子と茶  柳元佑太

妹ゆ捨仔猫飼ふ謀

紅梅や男は尿を見つつ出す

積もらない雪が降りをり桜鯛

啓蟄や火星にも地震あんなりと

祭果て獺飽食の魚まくら

神領に仏のおはす木の芽かな

峠にて朝寝夕寝や団子と茶

恋猫や寺の厨に賽の音

虹が立ち易い蕨の緩斜面

春の水蒸発をして美しい

 *謀(はかりごと)、獺(をそ)

ろまん 平野皓大

ろまん  平野皓大

雑巾の届かぬ蜂の乾びをり

貌鳥の腹より下を木末かな

ふつふつと水掃く日々や蕨餅

びいだあまいやあ涅槃の潦

義士祭の枕にはしる涎かな

花時をほとんど本へ神田川

外恋しくて荷風忌に誘はれて

競漕にろまん軽やか袴の地

初恋の如く蚯蚓をうち眺む

なじませる夕の冷えや更衣

ひとかけ 吉川創揮

ひとかけ  吉川創揮

四月馬鹿セロハンテープのひとかけ

合傘にこゑ寄せあへる桜かな

水いちまい桜はなびら止めどなし

花冷や眼鏡に日だまりが二つ

睡る手はベッドを垂れてヒヤシンス

夢の終へ方の不明の黄風船

清明やうろくづの銀ときに虹

春光や目覚めは釣られたかのやう

潮干狩り黙だんだんときんいろに

春の雲椅子傾げては戻しては

到来 丸田洋渡

到来  丸田洋渡

凧という字のうつくしさ空で照る

おぼろ月氷引きずる音のして

空中の蜂に格子状のあやうさ

蜂がいる部屋から蜂がいなくなる

春むずかし心は球根のように

花なずな二枚になっている未来

菜の花や骨のかがやき身の中に

手の先に足がある夢金盞花

瞳孔が砂礫のように漠としている

わたしがわたしで 取りこぼしそうだ

火の丈 柳元佑太

火の丈  柳元佑太

春は名のみの墨滴に溺れし蚊

竹の秋僧多くして寺静か

火の丈を吹いて育てし蕨かな

花冷や鴎飛び交ふ山ふもと

花夕の流れげむりも雨意のさま

として受け取る春星の遅延光

木の眩暈朝日が夜を阻却せり

春雷や飯少量を茶漬とし

ありふれて雨降る日々や蕗薹

その記憶皐月岬のものならん