松島号〈特集・旅吟〉

2024年3月16日・17日、帚のメンバー4人で松島に一泊二日の旅行に行きました。
各人による旅行記・旅吟を掲載しています。
それぞれの内容から、旅行の様子や、松島の風景を想像しながら、ご笑覧ください。

(以下、各タイトルをクリックすれば作品へ飛びます)

・平野皓大 エッセイ「気球乗りたち

・丸田洋渡 俳句20句「みらくる

・柳元佑太 俳句20句「日月潭

・吉川創揮 俳句20句「影踏み

 

宿の窓から見渡せた松島

プリズム 丸田洋渡

 プリズム 丸田洋渡

さらさらと秋は絶版海の石

濡れる石英の構造の荷解き

 ◇

月もまた飽きれば毒に観覧車

雷の遠いむかしの木のおもちゃ

弟はうとうととびたとうとしている

階段は屋上止まり金水引

来たる日の明くる日の洞みたいな戸

秋分の午後のぷりずむぷりずまず

脚色はきみを神へと七竃

 ◇

火星にも霊いたりして掘炬燵

長月のつなげてレゴブロックの家

封筒の入る封筒秋暑し

カンパニュラ通りすがりの時計店

のうぜんかずら猫は集会の時間

かろやかに浮く風神の風贔屓

鯛飯や城なくしては籠城も

鯛の目の上を醤油が濡れている

部屋よりも足跡多く塩鰹

地縛とは霊とは紅葉狩のこと

袖みえて舞だとわかるデルフィニウム

 ◇

ホルンに手突っ込んで吹く未草

船内にピアノが無くてピアニスト

夢よりも喇叭細かく描けるはず

ふくろうの毛布のごとき掛布団

蝙蝠のうわさうのみのうわのそら

犬つれて行くべき祭たとえ雪でも

 ◇

考えたオーロラのこと旅のこと

雪の日の白米に沢庵なんて

雪の鹿 悪はあるべくしてあるか

憂いとは螺旋するもの雪の花

雪が糧 熊のねむりが底つくまで

これ以上温泉に雪よ降りやめ

夢溶けて銅に鋼に春の犬

 ◇

さすらいの卵八ヶが丘の春

桜には夢と機関車予め

骨董に菫のかおり灰神楽

花みずき醤油皿にもお気にいり

口からも言葉でてきて蓮華躑躅

蝶にのみ聞こえるのなら喜んで

 ◇

草原に気球の影が消えていく

リーフ・スタディⅠ 柳元佑太

リーフ・スタディⅠ  柳元佑太

百餘回廻はる落葉や地に着く迄

無音世界落葉の上に落葉降り

ひるひなか落葉溜の匂ひ立つ

生乾きなる落葉あり落葉のなか

大落葉乾らび卷きなり草まき込み

落葉屑ふやけ浮かむや池の淵

鯉の頭にひつ付いてゐる落葉屑

白鳥の羽と落葉の混じり合ふ

永遠は徑の落葉の踏まれ待ち

焚き終はり落葉の印象が残る

鯉魚尺素 柳元佑太

鯉魚尺素  柳元佑太

卓に桃時間が萬物(もの)に死を與へ

ナクバ今も続く 

ガザ空爆檸檬は無限角形たり

鯉魚尺素は手紙のこと。ガザ完全封鎖なれば

月は太虚(そら)()け鯉の群れ引連れて

吾が四肢も紅葉づる氣配充足(みちた)らふ

おそ秋を繪とし思ほゆわれらも繪

落鮎や郵便局に紙幣(さつ)おろす

花野のうへ飛びて水汲む(びやう)ありき

湖を見に旅ともつかず秋晝寢

驛前にタクシー溜る鯛の秋

彗星の研究に秋闌けにけり

規則 吉川創揮

 規則  吉川創揮

  

  夏の雨句点を前に蹴躓く

  夕焼の長引く解体工事かな

  分離派や金魚密集のきらめき

  日は一つプールの底の模様剥ぐ

  皿に小さく日当たりのよいゼリー

  野苺や雨のはじめに手をひらく

  糸電話のこゑの解けてあめんぼう

  背表紙を撫でながら夏至書架廻る

  大雨は規則通りの蝸牛

  壁四つ電球に空蟬露わ

Dreamy 丸田洋渡

 Dreamy  丸田洋渡

蕎麦屋にも諍ひあらむ春の水

鏡みるとき蛇映りこむ蛇遣い

春逝くや懐かしい隕石の匂い

岬へは歩くほかない風露草

譜は指にそれから音に月日貝

風として萍みていたら教室

遠くから思い擡げて白八汐

瑠璃小灰蝶夜はいつわること多き

花札に海の札なし雨燕

めいめいの夏服ドールハウス露天

かき氷死はいちはやく君のもとへ

巻貝に夢のようなやどかりが来る

終わるまで風鈴刑の畳かな

室外機から室内が洩れている

向日葵や人に歯ごたえあるように

眠るときには骨群れて扇風機

夏の耳は二枚オルゴールの毒性

みんなしてオペラの俘からすあげは

邃い賽の回転もみじ鮒

王手から盤動かさず糸蜻蛉

種みせて絡繰が事切れている

さるのこしかけ辞書が夢みるなら語の

水都あらわる笛のかたちに水吹けば

きくらげのような雲あり描きたい絵

不仲から広がる星座しろい息

緞帳に鶴二三匹降りてくる

短日の火に飛行機が持ち上がる

ろんろんと貂の寝言に人が出る

零下まだ肌は剥がれることなく身

霞草すこし短い几に

○諍(いさか)ひ、萍(うきくさ)、擡(もた)げて、白八汐(しろやしお)、瑠璃小灰蝶(るりしじみ)、俘(とりこ)、邃(おくぶか)い、もみじ鮒(ぶな)、緞帳(どんちょう)、貂(てん)、几(ひじかけ)

ちゃち 吉川創揮

ちゃち      吉川 創揮

 桜貝煙の固定された景

 正確に騒がしく春印刷機

 桜鯛ゆーうつと書きその感じ

 チューリップ電車の長いすれ違い

 頬にむらさき君のあたりに迷う蜂

 春雷の窓に貼られてゐる自室

 百千鳥ちゃちな神像のほほえみ

 天秤のゆらめきときめき春彼岸

 印画紙に結ぶしずくの花曇

夜化  丸田洋渡

 夜化  丸田洋渡

台風の美的接近すさまじく

時止まりやすく金木犀へ鹿

しならせて弓にした腕冬の雲

氷らせる手を持ちあるく氷鬼

はてしない印刷室に蛸がいる

泣くミシン黒地に雪の色の糸

オルゴールある家あるべくして芒

鍵盤や雲のにおいを冬の犬

遺伝の木飛行機は電気も使う

雲核に雲あつまってきりたんぽ

目薬に目を近づけて霜柱

木造の猫にねむりや冬の川

丈夫な竹垣おもしろいつくりの星座

逗留に山茶花のつづきを歩く

蛇に鬱くるかも炎える木に木と木

見心地の良い氷山全壊の夢

書き終える雪の密室とその他

筆やすみ硯の海に浸かる雪

冬の池心を使用する会話

電源は遠いところに白椿

雪産めば雪もまた産むかといえば

梨の無い冬のテーブルにて昼寝

杳として蝋燭を減らすのは誰

筍や銀色の銀行に行く

菜箸も天ぷらになる春の油

辛夷確かに死は白の印象がある

退屈で塔たてる桜いろのドミノの上

一旦は麻酔の躰フリージア

塵みちる春 棺には向かない木

はしらせて朝の夜化を車から

 

花粉風雨 柳元佑太

花粉風雨   柳元佑太

大江健三郞、三月三日に死去せりと聞く 四句

花粉症酷き一と日や大江死す

獨學者現(うつつ)を花粉風雨(くわふんあらし)とす

稀に背筋伸ばせり春風のサルトル

伊豆も又た春の風雨か書齋閑(くわん)

大江に〈そして歸ってゆかなければならぬ/そこからやって來た暗い谷へと〉(『新しい人よ目覺めよ』)といふ句あり、澁谷も谷と思へば 三句

梅の夜の谷底暗し澁谷驛

吾が鄕は雪解盆地ぞ不得歸(かへらざる)

都市かなし何時まで春の麵麭祭

於 代々木公園 三句

太陽(ひ)は無垢を下界に給ふ大江の忌

百千鳥都市の夜空は弛緩せり

植物に自慰なきあはれ春の散歩(かち)

市 平野皓大

 市 平野皓大

 下町の寒さを云へる二階かな

 ゆふ寒や竿はなれゆく隅田川

 鴨過ぎてエレベーターの中透けて

 行く年の縦横部屋の並びをり

 仲見世をながれてたまる年忘れ

 濁々とふるへる牡蠣の火にあれば

 火を浴びて牡蠣は世の花壺に花

 信楽のふぐり拭かれて山眠る

 鬼がはら鯛焼の餡甘きこと

 暮市の値段楽しや眺めゆく