浜木綿やひとり沖さす丸木舟 福永耕二

所収:『鳥語』(牧羊社 1972)

処女句集『鳥語』劈頭の句。 前書きに奄美大島とある。

福永耕二の代表句として第二句集『踏歌』に「新宿ははるかなる墓碑鳥渡る」があるが、風景・イメージ・色調という点でどこか通底しているように思う。まわりはすこし暗いけれども、遠く目をやれば残照が映えていると言えばよいか。

『鳥語』は句集の装丁からして紺色で、劈頭の掲句、その次に置かれた句、そしてその次も、と同様のイメージが続いていく。そして読み終えたときには、一色に染め上げられてしまう。

また、二十歳のときに「馬酔木」ではじめて巻頭を取った句でもあり、そう言われるとべたっとした青春の鬱屈や、沖をさすという決意・心意気が裏に表白されている気もしてくる。

四十二年という比較的短い生涯のはじめに、掲句があったことに対して意味を見出したくなる。もちろん、それは感傷に過ぎるが。

                                    記 平野

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です