松島旅行に際して。
みらくる 丸田洋渡
うどん屋のくもり硝子や大白鳥
絶筆の万年筆の音がする
松島は牡蠣味の風吹いている
絶景に大ウケうみねこも海も
今は何書いても海になるから書く
つぶ貝の音録れそうに春の宿
これでは私が海老大好きみたいになる日
露天風呂とは類想の気持ちよさ
眼に映れ トランプの春色の騎士
〇
みるからに夢の気球が飛んでいた
〇
生きるみらくる熱気球のりこむ春
水の地球すこしはなれて春の月/正木ゆう子『静かな水』
熱気球すこし離れて春の地球
船に海ついてくるなり突き放す
春涛や友だちが詩を思いだす
お日柄も良く春風のサイゼリヤ
空調工事博物館の空調を浴びる。
手札には名句いくつも飛行機雲
春眠や城趾はいつまでも趾
していてもしたくなる旅さくら貝
これからの気球不足の空広々
【後日談】
作中にある「城趾」は、多賀城市にある多賀城跡のことである。
「出題者が名句を一つ設定し、その他3人は質問をして、その名句が誰の何という句かを当てる」というゲームが多賀城駅付近から突然に始まったが、それがあまりに盛り上がった結果、多賀城跡に辿りついても、誰もまともに城のことを考えてはいなかった。城跡から城を想像するのと同じように、断片から立ち上がる名句を想像していた。
出題者が一周して、(何かの跡の前に置かれているベンチに座りながら、)柳元くんが出題者となり、私たちが質問し得たヒント「季語は冬」「男性が作った」「定型ではない」「作者は昭和より前に亡くなっている」というところから、井泉水でも禅寺洞でもなく、橋本夢道でも横山林二でもなく……と考えて考えて考えた結果、雷のように閃いた〈咳をしても一人/尾崎放哉〉を答えて当たったときの快感と、そのときの強風に煽られて揺れていた青い竹の光景はおそらく死ぬまで忘れることは無い。
それからしばらくのこと、この松島特集号を作るために原稿を調整していたら、付けっぱなしにしていたテレビから、耳馴染みの良い単語「タガジョウ」が聞こえてきた。
2024年3月31日夕方の、そのときのテレビ画面に目をやると、見慣れた家族であるサザエさん一家が、家を飛び出して、旅行をしていた。日本三大史跡を回っていて、次は多賀城だ、仙台に行けば牛タンとずんだもちが食べられる♪ とカツオが言っている。
どうやらサザエさんは放送55周年目前であり、旅行スペシャル回だったようで、一家はあっさり仙台に移動して、多賀城跡へ向かい、私が最近見たばかりの風景の場所に立っていた。波平やサザエが説明して、乗り気じゃなかったカツオとワカメも、城跡を目の前にして「見える!見えるわ!」とか言い始めて、CGのように空想の昔の多賀城がカラフルに立ち上がっていた。
その様子を私はちゃっかり撮影して、早速、帚のメンバーに共有したところ、「われわれよりはしっかり見てる」という返信が来る。「間違いない」と私は返した。私の中での多賀城は、かなしくも、名句の中に埋もれている。