春禽にふくれふくれし山一つ 山田みづえ

所収:『手甲』(牧羊社 1982)

山は動かないものとして心のより所になる。ながい冬をぬけ、ひっそり閑とした山に鳥がさえずる。春の到来は声をもって知らされる。気温が上がりはじめ、活気を取り戻していく山の様子を「ふくれる」と表現した。そこには生命への視線があり、鳥の声をいっぱいに溜めて、山の生命はふくれていく。このとき山という静は動に転じる。

鳥と山の交感、それは山田の他の句、例えば「山眠るまばゆき鳥を放ちては」にも見られる。この句において眠る山は厳粛な静であって、なおかつ鳥を放つという動でもある。山は外観落ち着きながら、その生命はいつも蠢いているのだ。

記 平野

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です