文通:Perfumeと短詩と(丸田・吉川)

文通テーマ:Perfumeから短詩を考える

(2022年2月7日〜3月11日間)

丸田:今回は吉川くんと文通ということで、少し強引なテーマ設定をしましたがよろしくお願いします。何を話そうかと考えたときに、二人の共通点としてアイドルグループのPerfumeとその楽曲を好んでいることがあるなと思い出しこれにしました。
 辞書的な説明をしておくと、Perfumeは中田ヤスタカプロデュースの広島県出身の3人(かしゆか、あ〜ちゃん、のっち)からなるテクノポップユニット。2000年に結成、2005年にメジャーデビュー。
 
 一応短詩サイトの一企画なので、だんだんと短詩に絡めて話を発展させられたらなと思っております。とりあえずまずは、取っ付きやすい好きな曲の話からしますかね。何回か話したことはあるけれど、3〜5曲くらいセレクトして教えてほしいです。

吉川:はい、よろしくお願いします。正直先行きが全く見えていないので不安ではありますが。じゃあ何曲か挙げてみます。音楽には疎いので解説には期待しないでください。
 まずは「スパイス」 1 ですね。ミドルテンポかつ音の層が分厚く包まれている感じがして心地よいです。ほぼAメロとサビを繰り返すシンプルな形を、サウンドメイクの緊張と緩和で全く飽きさせない。サビの輪唱の歌割りなんかもまさにそうですね。やわらかいユニゾンにのっちの硬質なボーカルが追いかけていく。常に私のPerfumeベスト5に入る曲です。
 王道なところでいくと「シークレットシークレット」2 。キャッチ―なメロとシンセのフレーズ、そして楽曲を押し進める無機質だけど主張の強いベース、私の思うPerfumeっぽい曲の筆頭です。この無機的なサウンドに「いつも信じているよ気づかないふりするよ」「ななめから恋してる」みたいな人間味の強いフレーズが乗っかった時の不思議な味わいもいい。近年だと「再生」3 なんかが今っぽいサウンドにしながらもこの路線の曲という感じで大好きでした。
 そしてPerfumeっぽくない筆頭の楽曲ですが「マカロニ」4 は外せない。これは洋渡くんも好きな楽曲だと聞いた記憶があります。Perfumeでは珍しく大サビがあり、さらに珍しいことにブラックミュージックの香りがします。素朴かつ今よりも幼い声色のボーカルが、恋がはじまったばかりの初々しい距離感を描いた歌詞の世界を裏付けていてサウンドと相まって生身の人間味が強くでているのがいい。ラストサビに入ってくる夕方のサイレンみたいなフレーズは何度聞いてもノスタルジーを誘います。涙を誘うことがいい作品の証拠であるかのような物言いは好まないけど、何度も泣かされた曲です。
 洋渡くんはどうでしょう。

丸田: 「マカロニ」、かなり好きですね。この曲に関しては必ず、あのセピアがかったMVを思い出します。郷愁といえばまっさきにこの曲のことを考える。歌詞の「最後のときが〜」の入りの「さ」の音が良い。
 曲で言えば、「Puppy love」、「エレクトロ・ワールド」5 、「love the world」6 、「スパイス」、「願い(Album-mix)」です。何気に、「ポイント」、「Sweat Refrain」7 、「再生」も好きです。この箇所の音が特に!で言えば、「シークレットシークレット」イントロ、「edge」の「誰だっていつかは死んでしまうでしょう」の裏で上がっていく音、「Have a Stroll」の「心地いい風」の下がっていくところ、「ワンルーム・ディスコ」8 の「昼間みたい」の入り(声としては「昼」が聞こえているのに、一瞬で夜のことだと分かる雰囲気)です。

 と、このチョイスを見ても分かるように、僕はほとんど音の気持ちよさで音楽を聞いてます。普段から歌詞がないインスト曲ばっかり聞いているのもそうですが、聞いていても、歌詞が全く入ってこないんですよね。音は聞こえているけど、それは声ではなく、ただの音。だから、気持ちいいメロディの曲だと思って歌詞を調べてみたらスッカスカでウケる、みたいな事が多々あります。
 Perfume、きゃりーぱみゅぱみゅもそうですが中田ヤスタカが本当に、丁度いいところでこちらが求めている高さと質の音を鳴らしてくれるので、気持ちよく聞いています。そういえば「シークレットシークレット」の歌詞が地味に良いのを教えてくれたのも当の吉川くんでした。「edge」なんか特に、「あ、そっかで話聞いてないのね/I know, oh yeah! Say loving you yeah!」は僕のことを言ってるみたいで歌詞を調べたときは笑いました。

「マカロニ」とか「再生」とか特にそうですが、もう既に音が雄弁で、歌詞を判別する前から既に寂しく感じます。エロクトロニカとかテクノポップとかフューチャーポップとかチップチューンとか(サブジャンルとか詳しくないので適当ですが……)特有の、機械的でふわふわした明るい音そのものが裏に持つ寂しさ、意味とは離れたところで発光する感情、みたいなものを思うんですが吉川くんはどうでしょう。これもまた二人の共通点であるドラゴンクエスト、のファミコン風のあのピコピコ音楽も、気を抜けば胸の中にスっと入ってくるように……。

吉川: 「マカロニ」は確かにMVの印象も強いですね。8mmで撮ればセンチメンタルな雰囲気になるのは当然と言えば当然ですが曲と合ったいい作品です。洋渡くんのチョイスが私の好みと想像以上に似通っていて驚き。
 音楽のことはよく分からんので、自分も音の気持ちよさで聞いてます。洋渡くんが言ってくれたようにサウンドも気持ちいいんですけど、ボーカルも1曲の中でも加工の仕方や度合いが違ったりしてそういう音の楽しみもあるのが中田ヤスタカワークスのいいところだと思ってます。
 チョイスを見てればすごく分かるけど、お互いその電子的なサウンドが醸す寂しさに惹かれてるんでしょうね。それはPerfumeと出会った中学生の頃からずっと感じていることです。この寂しさ、切なさ、本当になんなんでしょうね。音楽に詳しい人からすればメロディやコードから説明できるのかも知れませんが、自分は比喩などのアプローチしか持ってません。例えば「再生」のイントロをイメージで喩えるならば、夜中の信号機の明滅を思います。太陽のような恒常的な光ではなく、終わりを予め含んだ光。そもそも電子音の高い音ってどことなく光を想起させます。一瞬性が寂しさを呼び起こすってことなんでしょうか。「再生」の音色は明らかに寂しげですが、挙げてくれたようなドラクエの16bitの平板な音色さえも感情を呼び起こすっていうのも不思議です。
 洋渡くんはこれらの音楽が醸す寂しさは何に由来するものだと考えていますか。

丸田:そもそも寂しさとは何なのかみたいなことを考えちゃいますね。「寂しい」って、基本的には(あってほしいものが)不足している状態、あってほしいレベルから離れている状態だと思うんですね。人がいなくて寂しいなら、そこにいて欲しい人が不足・欠落している。廃れた町を見て寂しいなら、もっと栄えていてほしい(栄えていた頃を知っていたり想像したりして)と裏で思っている。
 ただその例外に、充足しているがゆえの「寂しい」があるなと思います。大好きな人と一緒にいるのに何故か寂しい、的な。僕は〈まつすぐな道で寂しい/種田山頭火〉もこれで読んでいて、別にくねくねだったり繁華街だったりを求めていたから寂しそうな道だと思った訳ではなく、道が真っ直ぐである状態を幸せだと思い、だからこそ寂しいと思った。この、充足が寂しさに直結してしまう変な感覚が、「で」によく現れているなあと思っています。
 Perfumeの電子的な曲は、個人的にはその感じで、別に何もこちらは損なわれていないし、不足していないのに、音を聞いた瞬間に寂しいと思ってしまう。なんとなく聞こえは明るいのに。明るいからこそ……。寂しい曲を人間が寂しいように歌うより、あえて機械的な音で明るいように歌うところに、逆に寂しさを見出してしまう。めちゃくちゃ泣いてるのに泣いてないと嘘をつくときの感じというか。まあでも、ドラクエの曲を音だけ聞いて懐かしいとパッと思うように、もう躾みたいに、電子音そのものに懐かしさを直感的に抱いてしまう頭にいつの間にかなってしまった説はありますね。電子音に何故か懐かしいと思う+明るいゆえの寂しさ+(私たちが詳しくない)コード展開やメロディ等々……ということなんですかね。

 繋げて思うことで少し別の話になりますが、Perfumeって、私たちが歌っても何にもならない、ですね。この要素が他のアーティストより強いように思います。本人の作品は本人以外が再現したところで、という話ではありますが。鼻歌でもカラオケでも良いんですけど、僕らが歌うとき、僕らの声は電子的な装飾は受けないですよね。ただの声。自分で歌ったら、曲がびっくりするくらいスカスカになってしまって驚いた経験があります。息を吸ったり、息が切れたり、声が安定しなかったり、ビブラートが出来たり、そういう人間らしい、歌らしい要素が、Perfumeを歌うときは甚だ邪魔に聞こえる。これって地味に変なことで、オリジナルたらんと自分の癖で自分の歌い方で頑張ろうとするのがふつうのところ、オリジナルたらんと、かえって声らしさを消すという、声を求めながら声を無力化する、平板化するというかなり奇妙なことをしているなと思います。(僕よりも吉川くんの方が、Perfumeの背景を知っている(僕は曲メイン)のでご存知かと思うけど)Perfumeの3人も最初は嫌悪感というか拒否反応があったように思います。
 これを俳句で考えたとき、季語とか、写生という方法って、似たように、〈声〉を消してしまう装置な気がするんですね。方法、ってそういうものなのかもしれないですが。(この辺柳元くんが詳しいかもしれませんね……)個ではなくなって、皆が使う器に自分が入る、というか。
 そこでPerfumeとそのシステムの似て非なるところは、方向の違いだと思っています。「誰でも歌えるように」する写生、に対して、「誰にも歌えないように」するPerfume。(そこまで誰もが歌う(歌える)ことを排斥しているようなグループでもないので極端な言い方ですが。「STAR TRAIN」9 みたいなものもあるし。)初音ミク等ボーカロイドと、中田ヤスタカ-Perfumeの違いも、同じ形で説明できるのかなと思っています。
 だいぶ前に吉川くんに、電子音で悲しい系といえば……と思って紹介した「インベーダー☆」(Snail’s house)10 がハマらなかった要因に歌詞を挙げていたかと思うんだけど(注:当該曲には歌詞がなく、機械的に加工された声(調べると作曲者本人)がうっすら日本語に聞こえる歌を歌っている)、この”歌詞”や””意図的に加工された声”は特殊な様態のものかもしれませんね。
 色々支離滅裂に書きましたが、気になったところを拾って返してくれたらと思います。長々と失礼。

吉川:充足しているがゆえの「寂しい」非常に分かります。充足していてもそこから欠けることをうっすらと想像してしまうからなんでしょうか。
昔、Perfumeが自身の楽曲(楽曲全般か、特定の曲かは忘れましたが)を「物足りない感」があると評したことを思い出します。でもこの物足りなさって洋渡くんの言うところの前者の寂しさじゃなくて後者ですよね。
その「物足りなさ」の理由の一つに歌唱の方法があるなと。Perfumeの歌唱については、力と心を込めて歌え!と指導されてきたのに、中田ヤスタカと出会ってからは椅子に座って力まずに歌うことになってショックを受けたとPerfume本人が度々語っています。歌を作り上げる方法論が丸っきり変わってしまったんですね。それは彼女たちのそれまでの努力の否定であり、歌の良し悪しの価値観の否定だったわけです。歌と歌唱方法、技術は完全に分けて考えることはできないんですが、敢えて分けて考えるならば歌唱方法、技術が歌の良し悪しの価値観に直結するのって変な気がして面白いです。これは歌唱するアーティスト側だけの話ではなくて、リスナーでも同様で。最近見聞きして面白かったのはK-POPアイドルの歌唱についてのことで。K-POPアイドル業界は3、4の大手事務所が大きなシェアを占めてるんですけど、所属事務所によって歌唱方法が違うことがファンダムで度々話題になります。それで、私はあの事務所の歌唱法が好き、みたいなファンのツイートを見かけたりすることがあるわけです。こんなマニアックな事例に頼らずとも、少し苦しそうに高音を歌いあげる瞬間が感動を呼ぶ、みたいな方法論が価値感と直結しているというのはいくらでも考えられる。俳句なんてジャンルの成立が「写生」という方法論に依拠してるんだから、もっと方法と価値が結びついてるんでしょうね。方法にはK-POPアイドルの歌唱のように流派のようなものがあるのは事実としても、方法論によって誰でも歌える、価値のある俳句を生み出せるという雑な物言いも当たらずも遠からずかなと。
じゃあPerfumeはどうかというと、ビブラートとかそういう一般的な方法論を排しているのは洋渡くんが言った通りですが、かと言って多くの人が思ってるほどいかにもオートチューンかけてます!みたいな感じにもしないんですよね。歌の技術とか、オートチューンによる加工とかそういう情報を削ぐことでなるべく声色そのものにスポットを当てようとしている(声色が際立つ加工をする)のかなと。振り付けを担当しているMIKIKO先生も、息を切らして激しく踊ることで生まれる感動ではない魅力を出したい、三人がもっとも魅力的に見える振り付けを、と語っていて独自の価値を築こうとする姿勢と属人性の強さがここでも見てとれる。
別にまとめとかはないんですけど、俳句だと歌よりも方法論と作品の価値が結びついているし、声という圧倒的なオリジナリティの元がないしでやっぱり差異を生みだすのが難しいんだなと思いましたね。俳句が歌に憧れる必要はないと思いますが。

丸田:「物足りなさ」。本人たちも言っていたとは。やはり一人で考えるよりも知らない情報がどんどん補足されるから文通は助かりますね。
 歌い方を変えさせられる、って大変なことですね。想像もつかないな。ハロプロとかも、聞いただけですぐ分かる発声だったりしますね。よくテレビで「歌が上手い歌手ランキング」みたいな、微妙に腑に落ちないランキングをやったりしてますが(すぐ”歌姫”とか言い出す系の)……。たしかに、リスナーも肝心。僕が曲の声以外の部分をメインに聞いているように、人によって何を歌に求めて何を聞いているかが違うんでしょう。
 K-popはまさにそうですよね。日本でも、オーディション番組等々で世界を目指すぞ! っていうグループが軒並みK-popっぽい発声で歌ってたり。俳句の結社に入った人が結社特有の文体にどんどん近づいていくのに似てますね。どちらも、望んでそうなっている、というのが面白いところ。
 そういえば「カバー」っていう文化が歌にはありますが、僕は未だに乗れていなくて(宇多田ヒカルの「letters」を椎名林檎か歌っていたり、Spangle call Lilli line「nano」を内村友美(la la larks、元School Food Punishment)がアレンジしてたりしたのはただファンとしてアツかったですが)。本人が歌ってこそだろうと思っていて、本人の声とか感覚がセットで曲になっているわけだから、もう全くの別物になるよな……と思っています。ボーカロイド曲とかは、歌い手が歌った方が本家よりも伸びる、という現象が十年前くらいからずっと続いていますが、ボーカロイドじゃだめだったんだなとか、その歌い方が良かったんだなとか、色々考えますね。(歌い方に対する推し、とかあるのかな……。)まあ僕が今言ったみたいに、「あの人があの人の曲を歌うなんて」、っていうファンのためのサービス部分が強いのかもしれないな……。
 
 たしかに、Perfumeは「声色が際立つ加工」ですね。今までは足していると思っていたけど、それを聞いて改めて思うと引いているのかもしれないですね。足し算じゃなくて引き算だ、っていうのも、俳句の中で聞いたことがあるような。俳句は音楽からのアプローチで考えられることはまだまだありそうですね。
と既に長くなりましたがまた別の話題をいくつか。話したいことが多々ありまして。

 Perfumeでがっつり短詩と関わりがあるといえば「575」なわけですが、律儀に575を倣っていると思っていたら途中から「575で〜言葉遊びならべAh〜きみのこと〜探りたいの」で逸れまくるのが個人的に面白くて、会いたい気持ちは575なんかで収まらないよ、というのを音楽でやるとこうなるんだ、と聞く度に大ウケしています。
 そしていつも気になっている「Night Flight」の句またがり。「ちっちゃい歯車/まわして」「くるくるかみ合う/ふたりは」「もたもたすると/遅れるわ」の、タンタンタンタン/タタタタのリズムに対して、「だんだん近づく/のサンライズ」の入り方。これは完全に句またがりだなあと毎度思っています。拍がどうと言い出すと細かい上にあまり実りのない話になるので紹介だけ。
 こんな感じで、吉川くんがPerfumeに感じたことのある短詩関連のことってありますか?無茶ぶりな気がするので、もし無かったら、下のリンク先(SCHOOL OF LOCK!!で、12ヶ月のそれぞれのイメージに合う曲を三人が当てはめている記事)の感じで、Perfume曲で四季を感じるものを教えて欲しいです。

https://www.tfm.co.jp/lock/perfume/index.php?itemid=3287(これの、正月感があるとして「VOLCE」を挙げたのっち「あのさ、雅楽みたいな。そういうイメージ(笑)」が面白すぎる。)

吉川:カバーがよく分からない、同意ですね。私は音楽に対する感覚が本当に冴えてない人間で、歌が入っている曲はその人の声色と歌い方でしか覚えられないんですね。だから、違う人の声で違う歌い方で楽曲を再構築できるっていう能力はすごいなと感心はするんですけど、楽しみ方はよく分からない。
「Night Flight」の句またがり、洋渡くんが1度言ったのを聞いてからずっと聞くたびに少しウケますね。Perfumeで俳句を感じる瞬間、正直に言えばないんですけど、強いて言うならば「微かなカオリ」11 の歌詞の「夜はキミからのメールにすぐ気がつくようにケイタイ握り締めて寝る癖ついたよ」ってフレーズですね。中高生の頃は中田ヤスタカは歌詞に興味ないって言ってるのに印象に残るフレーズ書くな、と思ってたんですけど、大学生ぐらいになって「握り締めて」は流石に嘘だろって気づいて。でも「握り締める」って動詞じゃないと聞き手にはリアリティが伝わらないんだろうなとも。こういうアプローチ、俳句でもあるし自分もしてきたなとは思いますね。まぁこれはジブリ映画の食事のシーンなんかでも思う(食物の躍動感が明らかに現実的ではないけど、それ故に鮮明に印象残る)ことなので、創作における問題なんだとは思いますが。
 Perfumeの楽曲は基本的に季節感に乏しいんですけど、さっき挙げてくれた「575」なんかは575っぽい歌パートのサウンドは秋が近い夜とか、灯籠流しとかそういうイメージなんだけど、ゆるゆるのラップパートになると彩度の上がったオリエンタルなサウンドで熱帯夜感出てくるところなんかは意外と俳句っぽい季節感を意識してる気がしますね。

丸田: 俳句や短歌での類想も、カバーといえばカバーかもしれません。本当のリスペクトって、元を吸収した上で自分なりの新しい作品を打ち出すことだと思っているので、類想の域に留まっている時点で、カバーでしかないのかな……と。この話はカバー曲を良いと思っている人に悪いですね、やめておきます。
 過剰さがかえって、視聴者の心のなかでリアルさを生み出す。ありますね。創作だけに限らず、現実を仔細に表現しようと思ったら嘘が多少必要になる気がします。目と心を通して世界を見ている以上、単にそこに存在が存在しているだけでは説明できない……というか。現実、にそもそも嘘が含まれている、というか。表現の面から行くと、誇張とか、脚色とか、盛ってるっていう見方にはなるけど、実際そっちの方が本当だったりするかもなあと。感情が描写を大きくする。
 たしかに、「575」は和の感じがします。だいぶ前に、架空で即興でジブリっぽい曲を弾く動画を見かけて、すごいジブリっぽくてびっくりした(レイトン教授っぽい曲とか、ドラクエっぽい曲とかも)ことがありましたが、音で和とか俳句とかが連想されるのは面白いですね。音の表現法、未知。
 
 本当はPerfume曲について無限に語りたいくらいですが、短詩から脱線しすぎても読みづらいかと思うのでこれで最後の話題にしますかね。

最近のPerfumeの曲に似通った傾向についてです。ベストの「P Cubed」以降、「再生」、「Time Warp」12 、「ポリゴンウェイヴ」13 、「∞ループ」、「アンドロイド&」「Flow」14 と続いています。「リニアモーターガール」15 、「エレクトロ・ワールド」等電気系、「無限未来」16等時間系のイメージは昔からありましたが、ここ数作特にその印象が前に出ていると思います。人間がアンドロイド化していく……ユヴァル・ノア・ハラリ『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』にもそういうものが出てきますが、Perfumeがイメージしているような、機械による時空間の歪みとか、人間の機械化・機械の人間化のようなことがいつか未来では起こるのかもしれません。
 いずれそうなるとして、短詩の未来はどうなっていくと思いますか? ここでは特に俳句と限定しても構いません。今でさえ季語がどんどん無くなっていることを考えると、未来は今の半分も無いかもしれません。四季だってどうなっているか危うい。歌舞伎や浄瑠璃や落語のように、伝統として継承していく形になるのか、定型だけが残った季語の無い韻文詩になるのか、電子の波に消えるのか、全く新しい形として生まれ変わるのか……。私たちがどうしたいか、という話なのかもしれません。めくるめく変化していく世界で、俳句をどうして行きたいのか……。
 僕の少し前の連作「亡羊」は、Perfume的世界をイメージして作ったものでした。〈カーテンに届きつづける風のデータ〉、〈鈴を揺らせば象はまどろみ電気が通る〉などなど。前に角川俳句賞に応募したときの〈桜の向こうをデジタルに補完している〉なんかも。
「再生」や「ポリゴンウェイヴ」を聞いた一回目のとき、僕は古いなと感じました。音も、内容も、なんとなく。近未来が既に、古い位置にあるような気がして。「Future Pop」17 も古い気がした。その、古さが新しい気もして。少し古い俳句ほど新しくて、少し未来の俳句ほど古い可能性があるなと思ったりします。

 覚書のようで煩雑ですが、お願いします。

吉川:単純に現実の完璧な模写を提示してもそれは現実と同じく読者を素通りしてしまうから、何かしらの嘘だったり別の視点だったり、照明の当て方だったりのフックがないと現実がビビッドなものとして受け止めてもらえないということなんでしょうか。ただ日記とかを書いていて思うのが、そうした現実を受け止めるための表現が現実を上書きしてしまう、本当は10の感情だったのに表現すると100になってしまうことがあって時々ひっかかってしまいます。これは日記という事実に重きが置かれた表現での話だからこそではありますが。でもそう思うと私は何か句になりそうな10程度のふり幅の所感があったとして、それを100にするというよりは10を1×10に細かく解体していく気持ちで句を書いているかも知れません。洋渡くんは脚色とか大きくするとか、そういう単語をチョイスしてくれたけど、こう書いていくうちに宝石の研磨とか木像を掘るそんなイメージの方が少なくとも私のアプローチとは近い気がしてきた。

 ちょっと話はそれますが洋渡くんが「近未来が楽しみな時代は終わった」って句を帚に載せていた連作「Clarity」で発表してましたよね。その連作上での意図とは離れてしまうと思うんだけど、自分も近未来って心の底からはワクワクできないんですよね。近未来を名乗ってるのに、私が生きている間にその時代がやってくることはほぼないだろうって感じてどこか冷めて寂しくなるから。ドラえもんだって本当の初期は21世紀からやってきたロボットだったし、最近やりはじめた「Detroit: Become Human」ってゲームは2018年発売ですが、人間そっくりのアンドロイドが普及した2038年(今からたった20年後)が舞台だし。現実は近未来に近づいている感じはしません。近未来的な世界観は大幅には更新されていないのにです(SFに詳しくないのにこんなこと言うのは憚られますが、少なくともCMとか広告の「未来」のイメージはワンパターンですよね)。だから近未来的なものが古く感じるというのはよく分かります。

「近未来」のイメージが今でも焼き増し続けられてるのを見ると外野から分かるような革新は起きなくても、俳句は細々と生き続けていくことは可能なのかもれしれないとは楽観的ですが思いますね。季語が薄れて伝統文化としての軸が弱くなっても(逆に強まることもあるのかもしれませんが)、簡単に書ける日記的な価値を失うことはないでしょうし。文学としての俳句(という表現でいいのかも分かりませんが)も現実の季感が失われても今まで積み重ねてきた季語のイメージの中で書き続けられるんじゃないでしょうか。それに対抗して季語に立脚しない俳句ムーブメントも起きるのかもしれませんが、季語以外に立脚するポイントを見つけるのが困難そうです。とは書いてみたものの、近未来と言われてるものは私が生きている間には来ないと高をくくっているので、イメージが湧かず正直かなり適当な物言いをした自覚があります。洋渡くんが挙げてくれた作品が実感を持って読者に読まれる日は後50年内にくるんでしょうか。来るとおもしろいですけど。
 昨今の情勢も相まって、未来って言葉が本当にピンときません。めくるめく変化していく世界と言ってくれたけど、私には行き止まりへの直進としか感じられないです。だから今は、この世のどうしようもなさが俳句にどのような影響を与えるのかが時代と俳句の関係との中では興味があることかもしれません。
 洋渡くんがイメージしてる未来のビジョンについて詳しく聞いてみたいです。

丸田: 10、100、1×10の話は興味深いです。日記は良くも悪くも膨らんじゃいますからね。1×10、木像掘りは的確に吉川くんの作り方を表せている気がします。目の変な細かさと大胆な把握(〈木倒すに遣ふ時間を秋のこゑ〉、〈なんらかの塔欲しき冬涸れの景〉とか)はそういうところから来てるのかも。

 発表しましたね。もう懐かしい句です。ロシア-ウクライナの件を想っても、未来はちょっと怖いですね。コロナと戦争でもうすっかり未来ごと疲弊してしまった感。
 バック・トゥ・ザ・フューチャー2もたしか未来が2015年の設定で話題になっていました。近未来というのは理想まで含めた言葉で、常にひとつ先にあるもので、捕まえられないものなのかもしれませんね。こうなって欲しい、の連続で、本当にそうなったかの検証は置いていかれる。
 世界が案外このまま行くなら、俳句も案外このまま行くのかもしれないですね。
 僕が未来で起こるだろうと思っているのは、スピードが速くなること、です。生活における全てのスピードが。インターネット普及以前の世界に比べて情報の伝達がとんでもなく速くなったように、スピードが上がることは間違いないだろうと。移動速度もそう。リニアモーターカーはまだまだ先の未来だし、空飛ぶ車も実用化がどれほどかかるか知りませんが、ただ移動するだけの時間、は短縮されていくだろうと思います。
 もう既に、今YouTubeとか動画を見ていても、時間を浪費したくなくて再生速度を上げて見ちゃったりします。(意味もなく動画を見ているのに……。動画を見ないことが一番の浪費対策なのに。)別に無駄な時間が嫌だという訳では無いけど、機能の拡充や情報・世界のスピードアップで相対的に「ふつうの会話」が遅く感じるんですよね。ふつうの会話って、無駄な部分が多いので。(本当はそこがいいわけなんですが。)端折れるところは端折ろうみたいな。
 そこで、逆に、俳句の価値が生まれることはあるだろう、と予測しています。日記的価値、と吉川くんが言っているとおり、日記、って素晴らしくスローな行為だと思うんです。ここまで発展性のない、バックステップみたいな行為もなかなかないです。あったことを思い出して、映像を自分の言葉に翻訳して、書いて残しておく。未来では、体が自動的にその日起きたことを録画・録音してクラウドにバックアップを取ってくれる、ふうになるかもしれません。あったことを自分の手によって保存するって、やっぱりスロー。
 SNSの普及によって手紙や葉書が廃れていく一方ですが、逆に手間をかけて文字にすることに味が出てきて、敢えて選ぶ人がいる。俳句もそんな感じになるんだろうなと思います。既にそういう面が強いですけど。わざわざ俳句にする、って結構な労力と時間を要しますからね。速い世界では真っ先に削がれる活動でしょう。

 みんなが速くなって、逆に遅いものが大事がられる。一度速くなることを良しとした世界は、加速する一方で、遅くするっていう選択はきっとできません。核爆弾を持ってしまったらそれ前提の戦略を考えるしかないように。石と棍棒で戦う、みたいなことは想定する意味もないとされてしまう。(戦争なんて、加速の最たる例だと思います。)

 ぐだぐだ書いちゃいました。50年後に僕の俳句が「未来を予見していた」とか言われたら面白いですね。既に諦めきって書いているので……。たしか小学生のときに、君たちが大人になるころには、日本から半分の仕事が機械に取って代わられている、って講習を受けた気がするんですけど、全くですね。これからどうなっていくのか。
 Perfumeから出発して電子的な未来のことを考えていましたが、文通をしている間に進行しているロシアのウクライナ侵攻を思うと、未来は本当に分からないですね。渡辺白泉の俳句を最近神妙な気持ちで読み返しました。
 未来的で、だからこそ古く、遅い感じがする俳句をとりあえず作ろうかな〜と個人的に思いました。速すぎて遅い、とか。とりとめないですが。俳句を残したい、と積極的に思う訳では無いけれど、残ることで光るものがあるとすれば、僕はPerfume的な作りで助けようかなと思います。もしかしたら思ってもないことを言っているかもしれませんが。

吉川:スピードが速くなる、分かります。少しズレますが、私は通勤で電車に30分ぐらい乗るんですけど、皆スマホ見てるし、自分もスマホ持ってるしで何かしなきゃいけない気がしてくる。スピードアップっていうのは効率化とほぼ同じで、だけど効率化された結果ゆとりが生まれるってこともない。テクノロジーで効率化を突き詰める社会ならば、余暇の時間も含めて全てが効率化されスピードアップしていくんだと思います。Youtubeの動画を倍速で再生してしまうように。確かにそんな生活の中では社会のスピード感から意図的に離れる行為として俳句を書くという行為は機能するかもしれません。今の私にとってもそうな気がします。まあでも就職した程度で社会のスピード感に私は飲まれてることを考えると、未来のスピード感に俳句で対抗できる自信は私にはないですが。

未来的だけど、遅い。なんかいい表現ですね。未来への想像を抱き続けながらでも確かに今という時間を生き、今の時間感覚でいること。ちょうど新曲の「Flow」のよう。『過ぎる時代が 変わる時代が あの日の未来が 夢のように 覚めないままで 彷徨うままで そうさ 僕らは流れ雲になる』そう考えると近未来というのも悪くない気がしてきました。その未来を目撃できない寂しさがあっても、その未来を思い描いた過去や今の人の熱と時代の模様は確かにその作品に写り込んでいるわけですから。

私は自分が自分をおもしろがるために俳句を書いているわけですが、未来に私の俳句が残る可能性をこの文通を通して想像すると少しワクワクしてきました。私は本当に現在しか考えられない人間なので、洋渡くんとは全然違うけれど未来に残った時古くて遅くておもしろい俳句と思われる作品を書けたらいいなと。

これでこの文通は終わりにします。先行きの怪しいこの文通を最後まで見てくださった方、本当にありがとうございました。

  1. https://www.youtube.com/watch?v=biMO46z_VSY
  2. https://www.youtube.com/watch?v=th8H34qOk30
  3. https://www.youtube.com/watch?v=oqxvaDbAHkI
  4. https://www.youtube.com/watch?v=seESL1hsPas
  5. https://www.youtube.com/watch?v=8zh0ouiYIZc
  6. https://www.youtube.com/watch?v=75hg0XFVByw
  7. https://www.youtube.com/watch?v=CYL3DnyA4e0
  8. https://www.youtube.com/watch?v=cMsGcW-xaYU
  9. https://www.youtube.com/watch?v=pR2E2OatMTQ
  10. https://www.youtube.com/watch?v=jezqbMVqcLk
  11. https://www.youtube.com/watch?v=vjBRxHq_mxM
  12. https://www.youtube.com/watch?v=7M4EwGf-lH0
  13. https://www.youtube.com/watch?v=Q5_2VK_Hj2s
  14. https://www.youtube.com/watch?v=Cxsx3AMtz40
  15. https://www.youtube.com/watch?v=jyTiZUbL_Qg
  16. https://www.youtube.com/watch?v=Q51bru32S7A
  17. https://www.youtube.com/watch?v=cGlFxkWgI84

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です