市売の鮒に柳のちる日哉 常世田長翠

所収:『近世俳句俳文集』(小学館 2001)

秋のよく晴れた、しかし夏の暑さがおさまった日。橋袂の市に魚売りがやって来る。鮒や他の魚が腐ってしまう前にと、魚売りは市を走り回る。路上の人を分けていく。喧噪のなかから、ようやく声がかかる。魚売りは天秤を肩からおろし、露地に置いた。まな板を取り出し、魚売りは魚を捌こうとする。その背後で色ついた柳が散っている。涼しい風が吹いている。川のにおいがあたりに漂う。柳の葉は魚売りをふき抜けて、桶の水に浮かぶ。一枚、二枚、と黄色の散り葉、水の面は秋の日射しを照りかえす。鮒は葉影をきゅうくつそうに泳いでいる。

鮒も、柳も、しっかり物として存在している。ふたつの物が市のなかで出会う、そこに衝撃ではないが調和のエネルギーが発生する。市の情景がよりリアルに立ち上がる。活写された市はどこか落ち着いて、それで涼やかである。

                             記 平野

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