所収:『俳コレ』 邑書林 2011
「風船」は春の季語だけれど、ここは夏の季語「灼く」から、夏の風景だと読みたい。「風船」はいつの季節でもあるものだし、欠片となって灼かれたことでこの句における風船は春の気分が全くない。
風船の人工的で派手な色、少し縮れながら灼ける微かなゴムの匂いが喚起される。そのジリジリとした空気感が「空しづか」に接続されて、立っているだけで汗をかいてしまう風のない静止した夏のある日の空気が立ち上がる。鮮明ななんでもなさに心が惹かれる。
物語性のようなものを読み取るべき句ではないのだろうけど、空へと飛んでいくはずの風船が地面で灼けているという状況が、「夏の空」を「風船のない夏の空」へと変換するために、前項で述べたこととは対照的にどことなく欠落した印象も与える。そんな複雑さをたたえているからこそ、この句に漂う夏の空気感は肌で感じるだけでなく、なんとなく心に触れる美しさがあるような気がしている。
記:吉川