所収:『俳コレ』邑書林 2011
大勢の蟻が食物に群がる様を平明な言葉で描いた1句。
特筆すべきは、「蟻の力濃し」という表現。蟻が群がる様を写実的に描写するのではなく、「力」というワードを用いることで、小さな蟻が集まった時の少し異様な迫力が伝わってくる。ただ客観的に観察するだけでなく、蟻の立場に一歩踏み込んだような表現によるリアリティ。また「濃し」という普通、色にかかる動詞を用いることで、蟻が密集した時にそのあたりが黒く見える様子が浮かんでくる。
少しグロテスクとも言えるような光景にも関わらず、「集まって」「だんだん」などののんびりした言葉のチョイスによって、さっぱりとした印象の句となっていて、明るささえ感じられる。
記:吉川