自選50句 丸田洋渡
文と文法おとずれてから開く雉
蝶にあるたましいと同じ構造
絵から絵へうつる日永やふかみどり
蜂は蜂に分かる字を空にきれいに書く
語りは語りにまで延びていて蝶の錯
初蝶の手渡すように離れけり
書きぐせが本重くして桜貝
葉は山に蝶は閃きぱたんと死
太陽は回っている火白木蓮
鷲の巣や静かな場所で書き直す
文字から墨へ墨から文字へ雪柳
林を想いうつろになる雪洞
流暢に春の砂丘は多楽章
石鹼玉音感のある子どもたち
一行のかろやか花の半音階
飛行機が桜に入りゆっくり出る
落花めまぐるしく彼方ときめく目
月古りてゆく春の高鳴るテニス
まひるまの砂絵の麒麟油かぜ
こでまりの花やゆうべを一番愛す
手を三度ふつてお別れ梨の花
目は空にありつつ話す水ようかん
海から崖を見たことがない冷奴
すずしさや海に港の未完成
夕凪を座りつづけて絵の気配
泉に手を入れ泉を手に入れる
朝曇すぐ手紙はばたく区域
翡翠を引用しては紙を飛ぶ
光それが扉だと知る山椒魚
水からくりいつも上からくる天使
光の子みんな腕無しすべりひゆ
秋冷や光は鳥をもてはやす
眩しさに鹿は一枚へと変わる
鵲や白紙に収まらぬ発光
秋蝶は一昨日の百の構想
すいすいと月が昇って絵が乾く
銀杏散る窓がまたたくまに濡れる
月の暈人体という柔らかさ
太陽も咲くことあれば菊の花
金木犀歩道広くてかなしい午後
銀杏散る庇のように陽のように
沖に季の似かよひあつてひと休み
初雪は原稿用紙に似ていて書く
短日や花を究めてゆけば咲く
凍鶴のうしろを向いて止まりけり
鉱石のうつくしき示唆十二月
マフラーに雪なじむまでの遮断機
こんなにも雪が降りそう白鳥に
飛ぶように泳ぐ白鳥飛ぶときも
書くうちにあかつき軽くなる氷