銃よりもおもしろい  丸田洋渡

 銃よりもおもしろい  丸田洋渡

金魚売あわれあらわれては消えて

火祭の煙る浴衣や帰っても

霧しゃべる理髪師がおとす銀の道具

がむしゃらに歩くがいこつ百日紅

火が蠟に憑いている百物語

麒麟にも犬のともだち居待月

つながりのきれいな電車糸もみじ

鈴の色して会いにくる人も木も

よるの署の紙とぺんしる下弦の月

栗色の俳書にお似合いのランプ

ほんとうに砂の砂糖や秋うらら

おにぎりに謎の魚や神無月

新雪や毒の知識がすこしずつ

冬の日の銃よりもおもしろい花

ミルクティーみたいな冬のサスペンス

こせこせとクリスマスだから音楽

全身が仄明るくて蜜柑風呂

ガム噛めば梅のにおいの空は雪

俳句むずかし厚焼き玉子用の皿

   ❆

シャッターは生まれる前に押している

命綱なんてあるわけ山桜

寒天のみるみるうちに夏みかん

花火かとおもえば戦争のテレビ

あるまじきところに心ところてん

風鈴や島から島へ橋ひとつ

甲板に私が立っていて触る

幽霊はバターのにおい半夏生

原っぱのトランペットの子と話す

桟橋へ月見えすぎているような

山椒の木や人生は涼しくして

いわし雲三日後のこと考える

消えやすい秋の子どもの遊び方

卵のない卵パックの風通し

鶺鴒や哲学が哲学で紙

てのひらに文字書いている秋思かな

秋の夜コンビニが想像できる

お月見のおもちをもちあげるおもち

日向にも好き好きあって十月など

水族は三日月を考えている

ばらばらも非ばらばらも鯛ごはん

窓枠に窓ちゃんとある秋の朝

鶏頭や爆弾処理班の休日

チェロ色の大学前の停留所

口癖に口は欠かせず冬薔薇

かえりみる百舌鳥ことばからもう一度

凍土や小学校を遠回り

宇と宙のうかんむり感鐘氷る

荷づくりは窓を見ながら春の雪

一文字も書けていない花柄の遺書

   ❆

雪のなかで銃をうまく想像できない。


*読み:仄明るい(ほの-)、鶺鴒(せきれい)、百舌鳥(もず)


  

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